惑星の黄昏/片付け/ヒロ

 明日世界が終わるとしたら何をするのか。
 そんな現実味がない問題が現実となってしまったら、人はいったい何をするのだろう。
 
 それは何でもないいつも通りの一日に起こったことだった。
俺も特にその日が特別な日になるなんて思ってもみなくて、いつものように出勤時間に間に合うように起きて毎日と同じように会社に行くために家を出ていた。
 時間は正確には覚えていない。だけど、そのとき世界中の人が同じ言葉を聞いた。
「お前たちは世界を破壊し、浪費しつくすばかりで進歩の欠片も、進歩しようとする意志も見ることができない。なので私はもう一度この世界をやり直すことにする。明日の太陽が昇るとき、この穢れた世界を洗い流す」
 耳で聞いたというよりは脳内に直接語られたような声だった。ありえない、ただの冗談にしか聞こえない言葉だったのに、俺にはそれが事実なのだと何故か理解することができてしまっていた。それは他の人たちにも同じだったのだろうと思う。
 
 それから世界中がパニックに陥った。
 ある人は絶望して自殺をし、ある人はこれで終わるのだからと好き勝手に犯罪を犯し、ある人はどうにかして助かろうと核シェルターに引きこもった。
 明日世界が終わる。ノアの大洪水の再来。俺たち人類はその事実に対して何もなす術も持たなかった。物語のように英雄が現れて、問題を解決してくれるなんてことは起こらなかった。
俺は世界が終わるなんてどうにも実感できなかったけれど、無性に悲しくなって涙を流してぼうっとしていた。空に浮かんでいる太陽だけがいつもと変わらなくて、少し安心した。

それから俺はなんでだかわからないが会社に出勤していた。上司はおらず、同僚が数人だけいた。みんな現実を見ていないような、遠いところを見ているような顔をしていた。俺も仕事をしようにも、して意味のある仕事なんてもうなくて、俺は書類をじっと眺めるばかりだった。

気づくと何時間もそれから経っていて、連絡のついた友人たちと最期の晩餐をすることにした。レストランや居酒屋は当然のことながら営業していなくて、スーパーやコンビニも荒らされていて、準備をするのが一番大変なことだった。
俺たちは何とか食料と酒を持ち寄り、ひたすらに騒いだ。お互いに今まで打ち明けられなかったようなことを大声で語り合い、殴り合って、気が狂ったように笑ってから子供に戻ったように泣きじゃくった。初めて心が通い合って、お互いのことすべてを信じられた。なんでもっと早くにこんなふうになれなかったのかと悲しくなって、俺はまた泣いた。
騒ぎ疲れて眠くなって、気づけば友人たちは眠っていた。
なんでこんなことになってしまったのだろう。少なくとも俺は誰に恥じることもないように生きてきたのだ。生きていく価値がないなんて勝手に決めつけられるような人生ではないつもりだったのに。
電気会社の人も働くのを止めたのか、今や町中が暗く、月と星々だけがこの世界で光を放っていた。
願わくば、次の人類はこんな結果になりませんように。
そう輝く夜空に祈って俺も深い眠りに、人生で最後であろう安らぎに身を任せていった。

次の日世界のすべては洗い流された。

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「惑星の黄昏/片付け/ヒロ」への3件のフィードバック

  1. 片付けというテーマからここまで発想をぶっ飛ばしたのが最高にクールで好きです。

    世界の終わりをなぜか皆がすとんと受け入れられてしまったことのおかしさがもっと全面に押し出されているとさらに面白くなる気がします。

  2. まとまっている、けれど、だからこそもう一捻り欲しいというか。終末前日の人々の心理もどこかで見たことあるなあという感じだったので、たった一つ今までのものとは違う何かをクローズアップしてほしかった……それがきっと難しいのだろうけど。

  3. 世界の終わりというシチュエーションで、誰しもが思い浮かぶような描写に新鮮味がありませんでした。
    けれど、片付けというテーマで、世界の終わり方が「洗い流された」と説明されているところは面白かった。そして、それが何者かによるものだということ。そっちにもっと言及し、もっと読書がついつい考察したくなるような、思わせぶりの文書にしても良かったのでは

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