発つ鳥跡を濁さずに/かたづけ/きりん

 朝日のまぶしさで目が覚めた。時計をみる。6時53分。悪くない。ぬくぬくとしたベットを降り、タンスの引出しをあけて、時間をかけて着替えと下着を選ぶ。かわいいもの。今着たいものをゆっくり探る。決めたら着替えて、タンスのなかの残りはダンボールに仕分けて詰める。

 あらかた詰め終えて、ようやく朝食。コーヒーの為にお湯を沸かしながらパンを温め、ブロッコリー、トマト、チーズを挟んでサンドイッチにする。これで冷蔵庫はきれいに空。ここまで空っぽだと、ちょっとした達成感がくすぐったい。食べながら時計を見た。8時47分。約束の時間まであと1時間と少し。化粧をせねば。

 「ごめん、待った?」
 「んや?大丈夫」
 「なら良いけど」
 「どこ行きますかね〜」
 「どこいきましょうね〜」
 彼と2人で出かけるのは何度目だろう。まだ片手の範囲内かな。もう超えたかもしれない。会ってからは4年が過ぎようとしている。私はこんなに期待しているのに、相変わらずな関係。進める勇気は多分お互いになくて、仲が良い、のまま。今日こそはどうしようかとも思ったけど、やっぱり顔をみるとアクセルを踏み込むようなことはする気が失せてしまう。でも、せめて手は繋いでみたいかも。そこまでならまだ甘えで許してもらえるかな。他愛もないことを話しながら、彼の袖に手を伸ばした。

 食事を食べ終えてちょうど席を外したところで、携帯が鳴る。最近では珍しくもないが、姉だ。
「もしもし?」
「もしもし~?お姉ちゃんだけど。また洋服届いたわよ」
「あ、そうそう。お古で悪いけど、あんまり着てないのも多いから。お姉ちゃんか佳奈ちゃんが将来着られるようなのがあれば良いんだけど」
「いや、ありがたいけどさぁ」
どうやらこの前送った荷物が届いたらしい。
「今日ね、また冬物送ったから。そのうち届くよ」
「また?」
 適度に切り上げて席へ戻った。ぽかぽかと暖かい陽気に目を細め、彼は外を眺めている。視線が合うと、向かい合って座る互いの顔があまりにも眠そうで、二人して笑ってしまった。

 夕方、「じゃあね。もう会わない」といって彼と別れた。驚いた顔してたな。私は私史上最高の、渾身の笑顔がつくれていただろうか。

 海際の岸壁を照らす日が暮れていく。灯りの無いこの場所だと、そろそろ文庫本の文字を追うのが難しくなってきた。選びきれないからと思って大概の本は売ってしまったけれど、読んでいると本というものはやっぱり面白くて、一冊だけでも鞄に入れっぱなしになっていてよかったと思う。
 「残された時間は、あと二か月ほどだと思ってください」
 あのとき渡された二粒の錠剤を手のひらでもてあそぶ。飲んでから二時間ほどの間なら、応急措置をすれば助かるらしい。安全装置?とか。ご丁寧に砂糖でコーティングされてたり、そんなところ、要らないのに。この薬をもらう目的はただ一つなのに。

 わざわざ足を延ばしただけあって、風が気持ち良い。

 目を閉じて、錠剤を口へ放り込む。目をあけて、藍色の空に見守られながら、喉元の違和感を飲み込んでしまう。

 海が温かいといいな。そう思いながら、ゆっくりと落ちた。

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「発つ鳥跡を濁さずに/かたづけ/きりん」への4件のフィードバック

  1. 情景から勝手に江ノ島方面の海辺を想像して読んでしまいました。この文章を書こうと思ったプロセスが気になる作品でした。

  2. ほぼ確実に自分の知識不足だし、空気的にそこ聞く?って思われちゃうと思うのですが、おそらく大事な部分なので、すみません…錠剤ってなんですか…。

  3. 最初にあった時間の細かい描写が後ろの方でなくなるのは要するに彼との待ち合わせまでの焦燥みたいなのを表現したかっただけなのでしょうか?

    パッと見の印象ですけどしぬ人多いですよね、今回。

  4. 死のうとする心情の種明かしが欲しいです!なんで死んだの?という疑問がいちばん大きいのでどういう理由か匂わせるくらいはあってもいいと思います。あったけど私が気づけなかっただけでしょうか。

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