これだから嫌だよ/大作戦/θn

その怪物が東京を繭で覆ったのは5年前のこと。

あらゆる都市機能が破壊され、昼か夜かも判別できなくなったその街は絶望し、日本という国家ごと崩壊の一途を辿ってしまうように思われた。

しかし。

「でたなバケモノ!」

怪物の前に現れたのは、鮮やかな衣装を身に着けた5人の若者たち。

そう、俺らはヒーローだった。
それはもうとんでもなく、紛れもなくヒーローだったのだ。

*****

ひょうきんな入店音も生活に根ざしてしまえば案外気にならないように、人間ってのは一度「当たり前」になってしまえば、それになんの疑問も抱かなくなる生き物だ。

手には焼きそばパンと5個入りパックのこしあんパン。
これは習慣だ。朝6時に起きて6時半に家を出る。駅前まで歩いて焼きそばパンとこしあんパンを買う。

店を出ると6時47分。ここから小走りして6時51分の電車に乗る。

この社会でヒーローが現れたのは5年前、巨大な蛾のような怪人の登場によるものだった。

突然振って湧いた非日常に日本が、いや世界がパニックになったことはいうまでもない。しかしその一方で多くの人間が、その非日常を待ち望んでいた自分を認めざるを得なかったのである。

あの怪人は何のために存在するのか、いつの間にか凄惨な被害の賠償や責任、復興の問題はすり替わり、非日常そのものへの興味ばかりが世界に溢れた。某国の兵器だとか、本当の神の姿だとか。

そしてやがてその非日常に慣れ始めるのである。
東京は繭に包まれることが当たり前になり、怪人は兵器でも神でもよくなった。
慣れは怖い。慣れるということは馴染むということだ。

そこに現れたのが新たな非日常、ヒーローだったのである。

*****

「小宮さん、おはようございます」

吊革に捕まってぼんやりしていたら後ろから不意に話しかけられた。

「ああ、弓削ちゃんおはよう」
「いつもこの電車乗ってらっしゃるんですか?」
「そうね」

全身をモノトーンで固めた弓削ちゃんにもそういえば最初は違和感を感じていた。変身後のコスチュームはあんなに派手なピンクなのに意外だなぁ、みたいな。

「今日はでないといいですけどね、なんにも」
「まあそれにこしたこたないよ」

早く怪人がでないかと思っていたこともある。
突如現れた救世主集団はこれまた世界を大いに沸かせた。蛾の怪人を繭ごと焼き払った俺たちは一瞬で英雄になり、喝采を浴びた。

その後も不定期に怪人は現れ、そしてそれを解決すべく俺たちは出動した。

いつの間に戦うことはまるでなんでもないことになってしまったんだったかなあ。

『君たちが世界を救うんだ』

最初に声をかけられたときは子どもの頃の夢を叶えてもらえるようでたまらない気持ちになったわけだけど。よくよく考えれば俺たちはもう子どもじゃない。順応しなきゃ淘汰される。大人になっていたのだ。

あれだけ心踊った作戦会議は毎朝8時に行われる。今やテンプレ化した日常だ。

まあ戦うんだけどね。生活、かかってますから。

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「これだから嫌だよ/大作戦/θn」への3件のフィードバック

  1. ルーティンになってしまった大作戦。とても切ないものがありますね。こう使うかと驚かされました。
    ✳の区切りはうまいのですが、なんとなく構成に違和感があるような。必ずしも回想で分けてないから?なんとなく文章を入れ換えた感があります。気のせいかもだけど。

  2. 慣れとは確かに怖いものですね。
    このテーマは色々なものに応用できると思いました。
    もはやこのスタジオも、ルーティン化しているような……。一年の時のスタジオは、もっと「得体の知れない何か」だったような気がしてなりません。

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