とおりゃんせ/大作戦/Gioru

ここは危ない場所だから決して近づいてはいけないよ。

誰かがそう言っていたのを覚えている。

 

自宅の近くにある細い路地が例の場所で、そこはいかにもといった雰囲気がある。

昼間でさえ両隣のブロック塀や木々のせいで日光が遮られて薄暗いのに、電灯は古ぼけたひょろりとしたやつが一つポツンと立っているだけである。その電灯も寿命が近いのか、点いたり消えたりしているのを夜に見た。

 

僕自身、不気味で近づきたいとも思わなかったし、近づく意味もなかった。わざわざそんな道を通らなくても、通うべき場所には行くことができる。

普段使う道は幅も広いし、何より明るい。気になっているあの子も、この道を使う。だいたい同じ時間に通ることがわかっているから、それを狙って僕も似たような時間に家を出る。運よく出会えた朝には一緒に、たわいもない話をしながら同じ目的地に向かったりする。最近なにがあったとか、そっちは普段に何をやっているのだとか、そういえばこういうことがあるんだよねとか。内容なんてなんでもよかったし、僕的にはたまに見せてくれるあの笑顔が少しでも見られたなら、その日はいつも以上に幸せな日になる。

帰りにもこの道で、一緒になってバカやっているアイツと、次は何しようか~などとしゃべりながら帰ることがある。近くにあるコンビニのとあるアイスの一種類を二人で買い占めたのはいつだったか。

その二人とも、あの路地には行かないほうが良いと言っている。あの子は何となく怖い感じがするから近づかないと言うし、アイツはあそこだけはヤバい。お前も絶対近づくなよ、と言っていた。何故? と聞いても何となく帰ってこられそうにないから、としか説明がなかったが。

 

あまりにもみんなが行くな行くなと言うものだから、逆に興味が湧いてくる。それならば僕が行ってきてみようじゃないか。みんなあれこれ言うけど、行ってきたという奴はいないし、当然そこに何があるかとも聞いたことがない。あの子にもっと興味をもってもらえるかもしれない。心配されるかもしれないが、それならそれで大成功である。心配してくれるのだから、そりゃうれしいし。アイツの度肝を抜いてやれるかもしれない。そんなにビクビクしてどうしたんだい? 僕は行ってきたよって。

あの路地は、ブロック塀から蔦が幽霊のように垂れ下がっているし、いつ行っても暗くて、おまけにジメジメしているのが入らなくても臭いでわかる。僕の本能が行くなって叫んでいるような気もするが、それでも何があるのか気になって仕方がない。僕は家を出る時間をいつもより早くして例の路地へ向かうことにした。

 

路地の入口までくると思わず入ることに躊躇する。何があるわけでもないのに空気が違うというか体が重くなったような気がする。奥に見える電灯は、まだ朝早いせいか光っていて、相変わらず点いたり消えたりしている。

あそこまでは行ってみよう、と一歩ずつ前に向かって足を進める。一歩進めるたびに体は重くなっていくような気がして、頭はガンガンと警鐘を鳴らしているような気がする。それでも一度動き出した足はなぜか止まらなくて、気が付いたら電灯の真下まで来ていた。

こんな頼りない光でもさっきまでの暗さと比べれば断然良くて、ホッと一息つく。

そして何気なく今来た道を振り返る。

 

 

そこには真っ暗闇しかなくて、いつも通っている大通りはどこにもなかった。

おかしい、そんな距離があるはずないのに、と思うと同時にひんやりとした何かが僕の右手を掴んで引っ張った。

ものすごい力で引っ張られて、ぐんぐんと路地の奥に引っ張られていく。あの電灯の明かりすらもはるか遠くに小さく見えるだけ。悲鳴を上げようにも口がカタカタするだけ。

 

「オカエリ」

 

そう聞こえた気がした。

 

 

 

今日も僕は通勤のためにいつもの道を通る。そこにあの子はいないし、アイツもいない。

いつも通りの日常である。

僕は帰ってきた。

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「とおりゃんせ/大作戦/Gioru」への2件のフィードバック

  1. 行かない方がいいという噂話よりも、実際に行ったときの描写の方にもっと比重を置いてもいいと思った。不気味さの演出がうまいのに、その場での時間がすごく呆気なく終わってしまった感じがしたから。
    結末はよく分からなかった。もとの世界(?)、道(?)の方が幻だったみたいなことなのか。「とおりゃんせ」の歌詞が実は怖いみたいな説がいっぱいあるが、何かのパロディなのだろうか。

  2. 何が起きたのか分からないまま終わってしまってちょっと消化不良でした。気になるあの子の部分が他と比べて詳しいのが少し気になるというか、掘り下げたわりに友達のアイツと同じようなレベルでしか登場しなかったのが物足りなさを感じてしまいました。
    細い路地の描写がリアルで、情景を思い浮かべやすかったです。どの町にもひとつは、細くて暗くて不気味な路地ってありますよね。

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