ぼくの○○大作戦/大作戦/三水

 
 ランドセルよりすこし大きいかな、くらいのリュックサックに、思いつくだけの荷物をつめた。
シャツに、下着に、替えのくつ下。そのうち寒くなるから、お気にいりのパーカーも。
歯ブラシ、タオル、ポケットティッシュ三つ。
それからありったけのお年玉と、台所にあったパンと、チョコレート。
水筒はいいや、重いし。のどがかわいたら、公園でそのまま飲めばいい。
日本の水は飲めるお水よと、母さんが言っていた。

そう、母さんが言ったのだ。
「そんなに嫌なら出ていきなさい!」
その声がぶつかってきた瞬間、なみだも頭もまっ白になって、なにがいやだったのかも忘れちゃったけど。

とにかく、出ていけと言われたからには、出ていかなくちゃならない。

ずっしりと重くなったリュックサックを背負って、家を出たのはまだお昼前だった。
行くアテならあった。アテってなにかよく知らないけど、なんとなくこういうときに使うんだと知っていた。

長い坂を登って、てっぺんにはブロックみたいな建物がいくつもならんでいる。
友達の何人かはこのどっかの中に暮らしているはずだけど、どこ?って聞かれるとわからない。ここを通るときはいつも下をむいて、ちょっと小走りになっていくから。
なぜかって、、、ほうきを持って、エプロンをつけて、気がつくとこっちをじいっと見つめてくる人たちがいるからだ。
べつに入っちゃいけないとも、入るなと言われたこともないんだけど、やっぱりなんか、早足になる。
そういえば、しゅふってほんとにエプロン付けてるんだな。

坂をこえて、いくつものブロックの間を通りすぎると、今度は下り道に出る。
ただの下りじゃなくて、長いながい階段だ。一番上から見ると、ずっと遠くの足もとに一番下の地面が見えるくらいの、急な階段。
山を切りひらいたみたいな、平らなところなんてほんの20センチくらいずつしかない、小さな階段。
手すりをしっかりつかんで、下を見ないで、でも見ないとこわいからつま先のほんの先だけ見て、ゆっくり、半分くらい降りる。

そうしたら手すりを乗りこえて、赤土のみえている山そのものに足をつける。すべらないように気をつけて、斜面をまっすぐに横ぎって行く。奥へ奥へ。

そうして横手にぽっかり空いた、コンクリートの箱を横にくりぬいたみたいな場所が、ぼくらのひみつ基地。

山の途中にある家(ブロックじゃない、普通のお家だ)の真下にあって、急な斜面から家の人を守ってる。床が斜めなのは、やっぱりこまるから。
…… と、いうのは、タカシくんに聞いた話だ。もともとこの場所を見つけたのもタカシくんで、ぼくが仲間として呼ばれたときにはもう、古い毛布やらマンガ本やら、なんだかわからないビニールのおもちゃやらがそこらじゅうに落っこちてた。
ぼくが最初にやったのは、なるべく雨水でへたってないダンボールを裏っ返して、床に落ちてるのを片っ端から積んでいくことだった。

そのダンボールの上のものをなるべく平らにならして、ていねいにリュックサックを置く。両手をはなして、落っこちないのを確認。よし。

むき出しの地面が目だつけど、やっぱり少しは木もあって、下の目からちょうどこの場所を隠してくれている。
ここなら大丈夫。公園も、コンビニも近いし、毛布もある。友達もいるし、学校も近い。

木の葉のすき間からはきらきらした日がさしていて、今日もきっと、まだまだ暖かくなるだろう。
今日はだれも来ないのかな。

そう思うと急に、どこかふわふわしていた気持ちがしぼんで、つまらなくなった。
ので、友達をむかえに行くことにする。
ここは学童も近いのだ。

ついでにおやつを持ってかえって、今日の夕ごはんにしよう。セツヤクだ。

……今日はおやすみの日だった。友達はみんな家にいて、家族といるのだろう。
でも先生はいたので、おやつをねだる。
がらんとした教室に掃除機をかけたり、雑巾であちこちをふいてまわる先生に、ぼくのこれからの生き方をちょっとだけ教えてあげる。おせんべいを半分だけかじりながら。
日が、どんどん暮れていく。

先生におこられてしまった。
いつものがっとどなるおこり方じゃないけど、しずかな、言い聞かせるようなおこり方だ。何度も何度も。
それどころか家に電話までかけさせられて、
ぼくはおそるおそる、どこにつながってるかもわからないコードの先にむかって母さんと呼んだ。
電話ごしに母さんの声を聞くのは始めてだ。
ひどく遠く聞こえて、しかも敬語だった。こわい。

十五分で迎えが来て、母さんが先生に何度も頭を下げて、先生がぼくをなでて、ぼくの肩を母さんが抱えて、ぼくは家に帰った。

帰る前にリュックサックを取りに行かなきゃと言ったら、母さんは階段の途中までついてきてくれた。
ぼくが荷物をひっかけて戻ると、母さんはそれをひょいと取り上げて、重、と言った。
「こんな荷物担いで、家出しようとしたの?」
それがどんな問いかけかわからなかったけど、ぼくはなんでかすごく恥ずかしくて、うん、とかはい、とかこたえた。
母さんの笑い声は、ひどくひさしぶりな気がした。

家に帰って、まっさきに通されたのはいつものリビングで。
おずおずといつもの席に座ったぼくの前に、ほかほか湯気のたつ、カレーライスが置かれた。
特に料理が好きでも、得意でもない、母さんの定番料理。
平日の五日に二日はどこかのお弁当になる、いそがしいうちの食卓の、よくある光景。

一口には大きすぎるとり肉をかみながら、ぼくは泣いた。

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「ぼくの○○大作戦/大作戦/三水」への2件のフィードバック

  1. 子供目線の描写が上手いなぁ、と感心して読んでしまいました。
    ただ、場面の展開が少し分かりづらい気がするので、普通の改行と区別したらもっと分かりやすくなると思いました。

  2. 秘密基地とか自分はやっていたわけではないけど、なんだか懐かしいですね。周りのものが大きくなったような、心もとない感じが伝わって来ました。
    子供目線ならもう少し簡単な言葉でまとめられる部分もあったかな?と思います。

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