立ち直り大作戦/大作戦/杏仁

驚きすぎて言葉も出なかった。
まさかそんな訳ないって頭が拒絶して受け入れようとしてくれなかった。

 

 

大好きだった人に、彼女ができた。

 

それはまぎれもない真実で、もうどうすることもできないのは分かってるけど、やっぱり現実逃避したくなる。別にそんなにかっこいい訳じゃないしモテる感じの人でもないのに、みんなの憧れの、所謂マドンナ的存在とでも言うのだろうか、そんな可愛い人をゲットしたらしい。私に勝ち目なんてない。

 

それを知った帰り道、ひとりで電車に揺られながら、涙が溢れそうになった。いや、冷静に考えて、電車でひとりで泣きながら帰ってる女ってやばいだろ、という心の声により、何事もなかったかのように音楽を聴きながら平然を装っていた。 知らない間に噛み締めていた歯がキリキリする。

 

まあもともと、私のことなんて眼中になくて脈なしなことくらい分かってはいたけれど。でも、私のものにはならなくていいから、誰のものにもならないでほしい、なんてこと思ったりしていた。ばかみたい。

 

電車から降りて夜道を歩いていると、一人の男性が私に声をかけてきた。

 

「お姉さん、ひとり?うちの店、ちょっと寄ってかない?」

 

ああ、タチの悪いキャッチか。もう一人にしてくれよ。今日はもう帰りたいんだよ。

 

「いや、、、大丈夫です。」

 

「だってお姉さん、疲れてるみたいだから。」

 

「、、、だから帰りたいんですけど?」

 

「そんなこと言わないでよ。大丈夫、お金とらないから。」

 

この人は何を言っているんだ。客引きしてるのにタダでいいなんて頭おかしいのか。ああ、これはあれか、風俗とかに売られるのかな。人身売買とかされるのかな。もういいや、どうにでもなれ。もう何もかも、どうでもいい。

 

「じゃあ、、行きます。」

 

その人はにっこりと笑って私をお店まで案内してくれた。そこは小さくて小洒落た雑貨屋さんのような外観をしていた。中に入ると、フローラル系の優しいアロマの匂いが私を包んでくれて、張り詰めていた気持ちが、少しずつほぐれて行く気がした。

 

「ここ、なんの店なんですか?」

 

「んー、なんだろう。あえて言うなら、女の子を癒すお店?かな?」

 

そういってその人は、ははっと笑った。
やっぱり意味が分からない。本当に訳が分からない。そもそも、こんなところにこんなお店あった記憶ないし、本当はヤバい店なんじゃないか。そう思いつつも、ふかふかのソファーに案内され、座ると、不思議とリラックスできる空間に、落ち着いている自分がいた。

 

「はい、これどうぞ。」

 

目の前に置かれたのは、温かいハーブティーだった。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

一口飲むと、ハーブのいい香りと心地よい温度が口の中に広がった。
木を基調として作られているそのお店は、全てを包み込んでくれるような暖かい雰囲気をもっていて、自然と気が緩んでくる。何も考えなくていい、そんな気にさせてくれた。

 

「お、やっと表情ほぐれてきたね。さっきまでお姉さん顔こわばってたから。よかった。」

 

この人はやっぱり憎たらしいほど優しい笑い方をする。本当に変な人だ。
さっきまで失恋のショックでズタボロだったのに、みるみるうちにこの人の世界観に引き込まれている気がした。この人は私に、何も聞かない。どう見ても落ち込んでやさぐれていた私に、どうして何も言わないんだろう。

 

特に何かを話すわけでもなく、時間だけがゆっくりと過ぎていった。優しいオレンジ色の照明が、ただただ二人を包んでいた。

 

「あの、、、ここのアロマって、なんの匂いなんですか?」

 

 

「ああ、この匂い?これはね、ゼラニウムの香りだよ。」

 

 

 

 

 

 

 
ーーーーーピピピピピ

 

カチッ

 
チュンチュンチュン

 
目を開けると、そこは自分の家のベッドの上だった。

 
「ああ、なんだ、夢か。」

 
ベッドから出て、いつも通り準備をして家を出た。登校している途中、気がつけば、夢の中で行ったあの店の方向へと向かっていた。

 
そこにはなにもなかった。ただの空き地。おしゃれなお店なんて、影も形もなかった。別に期待してたわけじゃないけど。とりあえず確認してみたくなっただけだから。所詮夢だってことくらい分かってるし。そんなことを思いながらまた歩き出そうとした。

 

 

そんな時、前からふわっと優しい風が吹いて、私の周りをいい香りが包んだ。なんの香りだろう。どこかで嗅いだことがある、懐かしい匂い。

 

 

 

 

 

 

ーーーああ、この香りは。ゼラニウムだ。

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「立ち直り大作戦/大作戦/杏仁」への4件のフィードバック

  1. 夢の中の現実にありえないことを書いているのが、ドラマみたいでいいです。文章もそういうのを実現する場ですから。実際にそういう癒しが欲しいのかななんて思ってしまいます笑
    もう少し文章的には段落の長さや詰め込み方を均質にするといいと思います。

  2. 失恋の部分は共感度の高い描写で読者として主人公との同一化が出来ました。後半は大作戦の感じがあんまりなくふんわりして可愛い文章でした。

  3. タイトルと失恋の感じから、女の子が自分磨きみたいなサムシングに精を出して新たな恋に向かって頑張るみたいな可愛い文章を想像したんですけど裏切られましたね。

    ゼラニウムには魔除けや厄よけの力があるとされているとかいないとか。

    色によって変わるのですが、花言葉に「憂鬱」とか「予期せぬ出会い」とかあるみたいですね。

    この文章に繋がると言えば繋がるのかなって思いました。

  4. 失恋による傷を大作戦で想像するような一般的な方法で癒すのではなく、夢か現実か分からない誰かがゆったり癒す暖かい流れと文章が好きです。
    読者を裏切るというねらいなら良いのですが、タイトルと内容が合ってはいないように感じました。

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