美学/大作戦/なべしま

大作戦なんてステキでクールでカッコよい言葉は、怪盗、秘密結社のような、同じくハードボイルドでドキドキする組織にのみ許される称号だと思っていましたところ、私の目前では軽薄な男が妙齢の少女を軟派に勧誘しておりました。
暖かい昼下がりに心地好い喫茶店の、いつか座ってみたいと思っていた露天席を満喫中に、面倒くさい騒ぎは御免です。しかし少女も手馴れたもので、男をサラリとかわして大通りへと消えて行きました。普段ならば歯牙にも掛けない私ですが、その男性が懐から取り出した紙に”恋愛大作戦”と書かれているのを見てしまい、これは一つ何か言ってならねばと向かいの席に腰を据えました。どうせ一つ空いた席なのです。

「な、なんですか」
「あ、どうも……一つ言いたいことがありまして。貴方、それがいけないンです」
と言って紙を指さししますと、ハァと気の抜けた返事をするものですからつい力が入ってしまいました。

「大作戦と名付けるならば、まずそれなりの覚悟が必要なのです。そも、このようなステキにクールな言葉は使う者を選ぶのです。すなわち、貴方は大怪盗になるべき!」
「怪盗ですか」
何言ってんだこいつは、と顔が言っていましたが、返事をしてくれましたことに勇気付けられます。

「さっきの方は麗しい人でしたが、つまりは宝、あなたは彼女を法の網に触れ、指名手配されながらも、掴み取らねばならないのです、わかりますか。最初は失敗こそするでしょうが……しかして経験というものはどうしようもありませんからね。次です次。仕事を休んで嫌がる怪盗がありますか」
「まぁないでしょうね」

とまぁ散々好き勝手言いまして、怪盗なら相棒が必要だ、あらまぁその紙を書いたのは友人ですって?なら二人で頑張るのですと締めて私はお店を出ました。店内が混み始めたのです。
それからしばらく経つと、新聞に二人組の怪盗が多々出現するようになりました。私としてはドキドキして楽しいことですが、そんなに素直に人の言うことを聞かなくとも良いのにとは思います。

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「美学/大作戦/なべしま」への1件のフィードバック

  1. 読んでいて心が踊りました、文字を見ているだけで美しい印象を受けるのはすごいと思います。

    強いて言うなら文をすっきりさせるためか臨場感のわきづらい気もしました、でもこの文はこのままが絶妙なバランスである気もするので、難しいです。

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