zizozizo7/大作戦/エーオー

1
その日、めじろ区地蔵ホットラインに一本の依頼が入った。
「ちゃんと、おつかいできますように」
依頼主はあらかわひろとくん(6)だ。いつもは幼稚園の送り迎えで母親に手を引かれながらこの道を行き来している。きょうはひとり、エコバックを持って若干あぶなっかしい足取りでやってきた。
なるほど、はじめてのおつかいというわけか。微笑ましい光景も賽銭箱に百円玉が投入された途端、一気に暗雲たちこめた。ひろとくん、君はまだわからないかもしれないがこのご時世主婦はそう簡単に百円を手放しやしないんだぜ。レジにて金額が足りないという事態にならないだろうかと石頭と苔の間にいやな汗をかいた。
さて、こういうことなら受けないわけにはいかない。コードネームMA345(めじろ区あさひな町3丁目45番地の地蔵)は区域一帯に指令を出した。あらかわひろとくん、はじめてのおつかい成功作戦、始動である。

いやべつに、金額に目が眩んだとかでは、決してない。

2
「おいふたりとも、指令が入ったぞ」
こちら、あさひな町1丁目2番地富士坂前三地蔵のその弐。要請が来たことを壱と参にも告げる。
「なるほど。345もずいぶん熱心だね。またはずんでもらったのかな」
壱はいつものように物腰柔らかく言った。参はケッと口を歪める。
「あいつ、公園の前に置かれてやがるからな。小遣いもらってはしゃいだガキが、ぽんぽんぽんぽん遊び半分でけっこうな額入れてくんだろ」
そう、確かに地蔵は立地によって依頼人の層も変われば賽銭の金額も変わる。こちらの三地蔵がご贔屓していただいてるのは主に坂の上に昔から住むご老人だ。
「まあまあ、お互い様だし協力しよう。この前は杖を忘れた高山さんの件で助けてもらったんだから」
壱ははんなりと鼻筋の通った顔で爽やかに言った。ことわっておくと三地蔵も微妙に一人一人顔が違い、おばあさまがたは壱を会いにいけるイケメンと絶賛し賽銭をはずんでくれる。
そうこうしているうちに、ターゲットのあらかわひろとくんが坂の前に現れた。買い物は序盤だが、さっそく不安になってきたのかきょろきょろと辺りを見回しながら歩いていった。参が舌打ちをする。
「あの程度でびびるなんて今時のガキはなってねえな。昔はこの坂超えるのだって命がけだったが、子どもも泣き言言わずに登ってったぞ」
「昔って江戸じゃん。だいぶ遡るじゃん。むしろ今は舗装されて、ここで命を落とす子どもがいなくなってよかったって喜ぶとこだよ」
そう、つまり、地蔵がたてられる1つの理由がそれなのだ。
「ケッ、甘やかしすぎなんだよ」
「まあまあ。僕たちがもうひとり増えないようにみんなを見守っていこう。四じゃあ、数的にも縁起が悪いしね」
ほがらかな陽射しのなか、坂の上から結構なアクセルの音をさせて車が下ってきた。傾斜により油断するとスピードが出てしまうらしい。

3
ていしぼうにゅう
パン、8まいぎり
シーザーサラダドレッシング

……よし、かんぺきだ。おかねもはらって、ポイントカードもだせた。あとは、おうちにかえるまでが、おかいもの。

4
昼過ぎになり、西田さんと廣田さんがここで待ち合わせて近所の集会場へ向かうのを見送った。今日は生花のお稽古のようだ。
「214、この前賽銭箱壊されたらしいぜ」
「えっ、それはまた気の毒に。足を伸ばしにくい場所なのにね」
「人通り少なくて誰かに見られる心配もないからだろ。でも賽銭もそんなに……」
「214にとっちゃ踏んだり蹴ったりだな」
地蔵事情を語らっているとひろとくんの姿が見えてきた。はじめてのおつかいも復路、あと一息である。
あっ。
と思った時には遅かった。坂の目の前でひろとくんは転び、その拍子にがちゃんと何かが割れる音がした。エコバックに滲み出る液体、ドレッシング。見ているこちらさえ胸が痛くなる、おつかいがトラウマになってもおかしくない事態だ。
「試練だな。どう乗り越えるか見ものじゃねえか」
参だけはニヤッと笑っていたが不意にその顔つきがさっと凍った。。
坂の上からトラックが降りてきた。どうやら地面に這いつくばってしまったひろとくんが見えていない。スピードを緩める気配がまるでなかった。
「ど、どうする?!」
「まだ距離はあるけど、」
「いやもう限界だよ、アウトだよ」
「どうしよう、どうしたら止まるんだ」
二人ともパニックになっていたが地蔵は地蔵、それがひろとくんに伝わるわけもない。エコバックの中身をいじるひろとくん、トラック。どうしようもない。だって俺たちは地蔵で、どうにも、
その時、参の舌打ちが聞こえた。次の瞬間、彼の頭はぽーんと、それはそれはけん玉の赤玉のごとく弧を描いてトラックの眼前に躍り出た。
俺たちは声も出なかった。トラックは急ブレーキを掛け必然的にひろとくんの手前で止まることとなった。やっと振り返ったひろとくんの横、参の頭が転がっている。
「もう1つ増えたら、縁起がわりいだろ……」
頭部のかけた参が弱々しく言った。ひろとくんの手がその額に触れ、トラックから運転手が慌てて駆け寄ってきた。

5
『よくやってくれた、MA102の参。これで地蔵ホットラインも益々の発展を見せるだろう』
「あほか。これ以上命はかけられねえからな」
MA345からの伝令に参は不機嫌に返した。あの後、ひろとくんとトラック運転手の一報ですぐに町内会による参の緊急手術の手はずが整った。三地蔵も一躍有名となり「命を助けた地蔵」という新たなる伝承がこの地に生まれた。
「よかったね。こうなれば車の人も気をつけるようにはなるだろうし」
壱は柔和な笑顔を浮かべて言った。町内会の広報誌で「爽やか王子様系地蔵」と称された彼は虜にする年齢層をちゃくちゃくと広げている。
「やってられるか。自分の命は自分で守れっつの」
参は相変わらずだ。顔の傷は残ったが、それが逆に「ワイルドイケメン地蔵」として人気を博している。
さて、俺のことは必要最小限に留めておく。「超地蔵系地蔵」。どういうことやねん。深く考えると悲しくなるが、ひとまずセンターであることに自信を持って行こう。まさかアイドルグループの人気格差問題の葛藤を味わうことになるとは、地蔵人生いろいろである。

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「zizozizo7/大作戦/エーオー」への4件のフィードバック

  1. ここ最近のエーオーさんの中でいちばん好きです。
    児童文学系ですか?小学生が喜びそう。
    ただ、3段落は蛇足な気がします。

  2. 途中の部分が視点がわからず少し読みづらかったです。
    彼らの業界も大変なんだなーって思ってすごい読んでて楽しかったです。

  3. あらかわひろとくんポイントカード出せるんですね(笑)多分お母さんに釘さされたんでしょう。上のコメントにもありますが、地蔵視点で固めてほしかった気がします。微笑ましいですけど

  4. 字数の関係もあると思うが、段落分けでもっと視点を複層的にしたらいいなと。なにぶん設定が魅力的だからもっと中身を充実させてほしい!と思ってしまいます。
    地の文も地蔵だとしたら、途中から個性が完全に抜け切っている?のかなと思いましたかまどうなんでしょうか。

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