リハビリ中/夢の対決/五目いなり

はじめに
すいません、最近体調を崩してばかりでまともに書いていなかったので終わりませんでした。
対決部分まで物事が進みませんでした故、コメントは不必要です。

シザー・ザ・フール

ペン・ポールの無機質な目に睨まれながら、出された書類にサインを刻む。黄味を帯びた羊皮紙の上、するりと滑る一筋の名前の綴りが紙の繊維にずっしりと染み込んでいく様は、まるで魔法の様だった。
『ペンを持つとまるで魂を握られたような気分になる』という同僚ソシエのその言葉は、あながち間違いではないらしい。少しだけ震えてしまう右の手で借り物のペンを突き出すと、ペン・ポールは熱の無い笑みを湛えて私の腕から魂を奪う様に、まだインクの乾いていないたった一本のペンを引っ手繰った。
「ご協力、ありがとうございます。これもわが国の平和の為ですからね」
「平和が一番というのは分かるけれども、果たしてこれが正しいことだか、私には分からないね」
美しい革張りのケースの中に私の名前の刻まれた書類を仕舞い込みながら、ペン・ポールは「いいのです」と一言発した。
狭い応接室に差す昼の光が徐々に落ち、暗く冷たい影をつくる。影の中に落ち込んだペン・ポールの声の内に、こちらの意見に耳を傾ける気は窺えない。きっとその『いいのです』の中身は碌でもないことだろうと思っていたら、ペン・ポールは恥ずかしげもなく愚かな言葉を、まるで優れた詩人の詩を奏でる様に口にした。
「我々は国民の皆様に快適な暮らしを提供するのが仕事ですから、国民の皆様は我々にただ、従っていただければ―――」
「―――いいのです、ということか」
「そういうことです」
不安になる程自信に満ちた返答に、頭を抱えたい気分になる。果たしてこれで良かったのか、と問いなおしても、すでに仕舞われてしまった羊皮紙の上の私のサインを取り消すことは出来ないようだと、諦めざるを得なかった。
『ペンは剣よりも強し』
一体誰が言い出したのか。そんな一言のせいで、この国は狂ってしまった。力なり得るものを全て法律で押さえようとするこの国の姿勢は、果たしてあっているのかと、考えるのも億劫なほどに、この国はおかしいのだ。
後悔が倦怠感を引き連れて全身に襲いかかり、思わず「はあ」と溜息をつくと、後方でがしゃんと音がした。見るとドアの向こう側、数人のペン・ポールが、キッチンから銀色に輝く私の魂―――数々の料理用ナイフを乱雑に箱詰めしている最中だった。
ぎらり、鈍く輝く私の魂があまりに乱暴に扱われている様に、私は思わず立ち上がった。何をしている、と叫びながら今にも箱に投げ込まれそうになっている一等気に入りの牛刀をペン・ポールから奪い取り、相棒とも呼べるこの牛刀が、誰の血にも濡れていないことを心の隅で安堵した。
「おい、貴様一体何のつもりだ? 仕事道具まで持っていくとは聞いていないぞ」
一本死守した牛刀の柄を握りながら、ペン・ポールを睨みつける。ペン・ポール達は悪びれる様子も見せずに、まるで私を嘲るように、手の中の牛刀に手を伸ばした。先程私の手からペンを引っ手繰ったのと同じように、ペン・ポールは私から個の魂を引き剥がそうとしているようだと、私はすぐに気が付いた。
「条例をよくお読みになってください、我が同志よ。刃渡りが10センチを超す刃物は全て、国の条約により没収となるのです。大工の鋸も、料理人の包丁だって例外ではありません」

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