あたたかい/食レポ/味噌の

用意するものは冷凍うどんとめんつゆと、大根に人参、ネギとそれから卵。

決して高級なものではないが、実家にいた頃、風邪をひくと母がよく作ってくれた私の好物である。大根と人参は細長く切って、めんつゆを水で薄めたものを入れた鍋に投入。煮込む。野菜にめんつゆが染みたら麺とネギと卵を入れて、卵の黄身が固まるのを待つ。以上。ちなみに一番合うのは温かい日本茶であるから、それも用意するのが望ましい。

教わったわけでもないため、ぼんやりとした記憶の中の味から推察して作ってみるという行為を4月から度々行っている。最近は大分近づいてきたような気がしている。写真は撮り忘れてしまった。申し訳ない。

 

鍋の蓋を開けるとめんつゆの穏やかな香りが辺りに広まる。まずはつゆが浸み込んで薄く色づいためんを、滑らせないように割りばしで慎重に椀に盛る。次に野菜を入れる。向こうが透けそうな薄茶透明の大根と鮮やかなオレンジの人参は椀をさらに温かく彩るのだ。最後に小さなボールのようになった卵を上に盛って完成。横から香る日本茶も落ち着きを与えてくれる。

食そう。

まずはメインの麺から。冷凍食として真っ白だった麺はめんつゆの色を受け取り、麵だけを口に入れても咀嚼すると穏やかな弾力とともにうっすらとしたつゆの味が口の中に広がる。熱さと闘いながら飲み込んだそれは喉を過ぎたころから体の中から伝わる暖かさに変わる。薄茶透明になった大根は軟らかく、噛めば噛むほど大根そのものにとつゆが溶けて入り込んだような優しい味がじんわり広がっていく。人参は色こそ変わらないものの、いつもの固い触感からは想像がつかないほど軟らかく優しさを感じさせる。それでも、もちろん人参のあの風味は失わない。

しかし、まだ真の力は発揮していない。残りも少なくなったら、表面に顔を出す小さな球に箸を入れる。箸を入れた瞬間から、白い膜に覆われた黄色い核はつゆの中に溶けだしていき、透明だったつゆはみるみるうちに濁っていく。あとは溶け出す前に固形で食べるもよし、溶けた後のつゆを楽しむのもよし。ちなみに固形で食べるのがおすすめである。一気に口に入れたときに固形の黄身に感じる弾力はあまり普段感じることのない卵の触感なのだ。

最後に日本茶を飲んで一息つけば、寒気を感じていた身体はすっかり温まっていることに気が付く。

 

特別な素材を使っているわけではない。手順も至ってシンプルで、こだわっているのは野菜を煮込む過剰な時間のみである。それでも風邪をひいたときに食べるこれは多幸感をもたらしてくれる。その幸福感は、サン=テグジュペリの「星の王子さま」を読み終わった瞬間の感覚に似ているかもしれない。優しくて、じんわりと身体にしみわたる。

ところが、未だ完全再現には至っていない。もちろん普段自分で作って食べてもおいしいのだが。きっと再現には風邪をひくという条件に加え、母の優しさが必要不可欠なのだろう。ぜひ風邪をひいた友人がいたら作ってあげてみてほしい。優しさを入れて一緒に食べると、一人で食べるよりも多幸感はさらに増すはずだから。

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「あたたかい/食レポ/味噌の」への2件のフィードバック

  1. お袋の味〜〜。女子力を感じました、良い話。心の底からコメントしています。
    料理って作る相手がいると、より美味しくなるもんなんですかね。ええ、きっとそうなのでしょうね。
    あいにく、食べた後の幸せについては、実際食したこともなければ「星の王子様」を読んだこともないので、今はまだ分からないのですが、それを知るためにも教養としても、星の王子様読んで出直してきます。

  2. 大根買うと全部使い切れないのですがどうしたらいいでしょう。とりあえず冷凍うどん買ってこようと思います。寒いから温かいもの美味しいですね。
    でもうどんに日本茶は初めて聞きました。今度試してみます。

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