手と手/あったかい/ネズミ

 

いつからか「あったかい」と言われることがたまらなく好きになっていた。

 

12月も中旬になり、寒さは深くなる一方だ。待ち合わせの時間ちょうどくらいの時間に到着し、携帯を開いてみると一件のLINEが入っていた。あいつからだ。

(ごめん!トイレ行ってくるから10分くらい遅くなる!)

またか。なぜだかおれは誰が相手でも待たされることが多い。まあもう慣れてるからいいのだけど。この間なんて、4時に来るって言っていた友達が6時に来た。なめられてんのかな。別に待つこと自体はそこまで嫌いではないのだが、相手に待たせても大丈夫な相手って認識されているのがなんだか気に食わない。だからって怒る気にもなれない。器の小っちゃい男だって思われたくないし。

だけど最近、本当にちょっとのことでイライラするようになっている気がする。バイト先や、通学中や、友人との付き合いなどで。以前なら絶対気にもしなかったことにも過敏に反応するようになってしまい、その度に自分の小ささにまたイライラする。

就活を目前に控え、周りがインターンだの何だのとせかせかとしている。そんな周りの状況についていけているのかという焦りと、将来に対する漠然とした不安。これらが相まって、気づかないうちにおれの中にストレスが溜まっていっているのかもしれない。

ツイッターも見終わったし、特にやることがなくなった。待たされる側の人間にとってあるまじきことだが、空いた時間をつぶすのが圧倒的に下手だ。時計を見ると先程から既に10分が経っていた。顔をあげてみるが、目の前を流れている人ごみの中にあいつの姿はない。これだよ。あいつが「〇分遅れる!」といって提示してきた時間に間に合ったためしがない。遅くてもいいからできるだけ正確な時間をいってくれた方が、こちらとしてもありがたいのに。またイライラしてる。それに気づいてイライラはさらに増す。

それから2、3分後。あいつが遠くに見えた。寒がりなだけあって、全身を完璧に防寒している。ただ手袋はしてない。めっちゃ笑顔。なんだかこっちがイライラしてるのが馬鹿らしくなるほど。

「ごめんごめん、待った?」

「いや、それほど………」

体感的にはすごい待っているが、ここは優しい嘘をつく。

「そっか。じゃあいこ!」

そういうとおれの手をつかんで引っ張っていく。相変わらずこいつの手の冷たさには驚かされる。氷みたいだ。そして振り返るとおれにこういう。

「やっぱり手、あったかいね」

この瞬間、今まで感じていたイライラも溜まっていたストレスも全て報われた気になる。胸の中のもやもやもこいつは簡単に奪っていく。こういう人はきっと手放したらいけない。そう思ったおれは、ぎゅっと手を握り返した。

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「手と手/あったかい/ネズミ」への2件のフィードバック

  1. 結局いいんかい!とつっこんでしまいました…。でもそういう人は貴重ですよね。主人公の心をほぐすのは「あったかい」という言葉そのものの効果ではなく、そう発言する「あいつ」の効果のように感じました。

  2. ストレスが溜まって辛い状況だからこそ心が温まるのでしょうか。そう考えると悪いことにも必ず光があるように思えます。
    ただ、ストレスを抱えすぎるのはよくないです。全く言える立場ではないのですが、うまく折り合いをつける力をつけるといいんじゃないでしょうか。

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