熱しきらない私の平凡/あったかい/θn

平熱の欄にはいつも36.5℃と書いていたはずだ。

体温計は脇に挟んでからしばらくたったというのに一向に鳴る気配がない。
しくじったなぁと鈍く痛む目を閉じると、白い光の残像が瞼の裏でチカチカとうるさかった。

風邪をひくと気持ちが弱る。まして大学生の一人暮らしとなれば尚更。
実家には山ほどあった薬も必要最低限しかなく、ポカリやら何やらを買ってきてくれる母もいない。このまま治んなくなったらどうしようか、風邪をひくたびに頭をかすめる馬鹿みたいな妄想もここぞとばかりに元気になるから厄介だ。

「頭のどこかでリストカットにあこがれている自分がいたりしないの?」

2、3回前のスタジオで清田先生に言われたこと。その時は全くピンとこなくて、でもそれからたまに思い出しては考えていた。うーん。たしかにそういうときがあったような気もしてくる。

私はなかなか平凡である。

非凡な人なんてそうそういないと言われるかもしれないが、だから彼らは非凡なんだ。当たり前だろう。選ばれたなんちゃらとか生まれもってのなんちゃらとかそういうの、めったにいないから特別っていうの。日本語は正しく認識していかなければ。

「リストカット」自体ではなく「リストカットをしている人」であるということが特別なように感じていたいつかの私。まあもちろん実行するつもりなどないしなかったんだけども。痛いとか生きてる実感とか、あんまり興味がない。痛いのは足の小指ぶつけるとかで十分足りてるし、生きてる実感は正直なくていい。生き吸って吐いて心臓が動いて、死んでるわけじゃないから問題ない。

揉め事が面倒な消極的平和主義者がたくさんいる。わたしもその沢山の一人だ。

一人っ子、A型、9月生まれ。
公開したところで世の中に何人くらいいるんだろうな、やんなっちゃうかな、案外なんないかもな。

ピピピとせわしなく電子音がなって、見てみれば37.8℃だという。ひええ。

人並みに風邪をひく。誇れることもさしてない。
痛いのはやだし、死にたくもない。これといって生きるのに前向きでもない。
言い訳をヘラヘラ唱えて、卑屈なフリ。

「〜な人」というわかりやすい名札がみんなについていればいいなと思う。
みんな違ってみんないいなんていうけど、そりゃあわかりやすくていいだろう。面倒で揉めたくないから揉めるのに、皆違ったら争いも起きない。

とかいいつつ遠い国の戦争にもさして興味はなかったり。
結局心のどこかで凡庸でいい、天才は天才できっと大変じゃないかという私がいる。声は妙に大きい。

平熱は36.5℃。
没個性が個性になるのはマンガの中だけ。
風邪をひくと気持ちが弱る。ぐるぐるし続ける凡庸な妄想を打ち消すように布団を被った。

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「熱しきらない私の平凡/あったかい/θn」への1件のフィードバック

  1. 狭い共同体の中にいると、つい区別されたい非凡になりたいと思って努力するけれど、視野を広くしたら自分みたいな人はごまんと居るんだろうなぁと思いました。

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