生態調査/あったかい/なべしま

獣は高級な絨毯のように毛深く、指がすっぽり埋もれてしまうくらいで、あちこち絡まって目を隠し、爪を隠し、この世の毛糸玉全部を解いて滅茶苦茶に被せたような惨状。汚らしく貧相、見るだけで不幸になりそう。
幼い頃からのこの風貌、忌まれ疎まれ遂に墓守に就任したという。名札もなし、立て札もなし、事前に獣についての予習を怠らなかった彼のような人間でなければ単なる不潔な化け物に見えたことであろう。事実五分前、彼はこの墓場から一目散に逃げ去る人物を目撃している。
彼が礼儀として団子を差し出したらば、獣は茶を出しもてなしてくれた。獣は作法には厳しいらしく、ただ彼の作法は心地良いようで、普段ならば不届き者の脛には噛み跡がつくのが通例であるが、温かい湯気に包まれて和やかに談笑が始まった。

ではお聞きしますがとペンのインクを確かめ、ボードに紙を挟んで、そして獣の様子を、嫌ではないかとチラリと見ると表情は見えずしかし別段気にしてもいないようで、彼はそれではと座り直した。
普段はなにを食べるのですか、と聞くと獣は考え込み、特になにも食べてはいないと返したようである。なにせ獣は口の形状、見えないのだか人間のものとは違うらしく、唸り声混じりの母音のような言語で話す。これを聞き取るには一級の耳が入り用であり、彼には才能があった。獣は毎日空気ばかりを飲んで、吐いて、そこになんの栄養源があるのか、空気中にも微生物などという極微の生物が浮遊しているらしいから、もしかしたら驚異の燃費を誇っている可能性があると記入する。それからもでは団子は食べないのか、いや食べる、他に嗜好品はあるのか、煙草なんかはどうだ、いいや吸わないが燐の香りは好きであるなどの質疑応答。彼は学者であるらしかった。獣の生態を解明し、然るべき地位に分類するという。
それならばなぜ趣味だの好物だのを聞き出すのかはサッパリ判らぬ。終いには電話番号さえ判明した。ペンは持てぬから爪先で粘土板に書き付け渡すほどの優しさで番号の受け渡しがなされたが、獣の厚意に感心するばかりである。

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「生態調査/あったかい/なべしま」への2件のフィードバック

  1. 語呂が良く、描写も変に鬱陶しくなくくっきりとしていて、いやもちろん内容自体も面白く、これだけの字数でこれほどの奇妙をこうも明確に描けるものかと感服します。

    語り部がただの案内ではなく、自身もまた主観的に思考しているというスタイルをつかむのに少しつまづきました。もちろん魅力の一つなのですが。ところどころ、漢字が多くて少し疲れるときがありました。

  2. 状態や状況の描写が細かくなされていたので、非現実的な設定であったにもかかわらず具体的なイメージが湧いてきました。
    あたたかい、というテーマからは想像もつかないような内容でした。

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