ひとつ、知人の話を聞いておくれよ/自分大好き!/五目いなり

やれ、聞いてくれるかい、そこの方。
なあに、ちょっくら知人の愚痴を聞いて欲しいだけですよ、他の誰にも言えやしない、愚痴なんで。
え、本当ですかい、聞いてくださるたァ有難い。
いやあ、あいつ、本当にいやァ〜な奴なんですよ。
できる限りそばには寄りたくないと思っちゃいるけども、どうにもそうもいかなくてね。

まずは、外見。
いつもヨレヨレのジーンズと、ぶかぶかな黒いTシャツを着てるんです。
本人曰くどこかの観光地やらレストランのシャツだそうで、よく着るシャツは「一軍Tシャツ」だなんて言っているんですけど、そいつの格好の悪いことといったら、もう!
貴方も、見たことありますでしょう、御当地Tシャツなんてありゃあ、土産物屋の空きスペースを殺すためのペナントみたいなもんじゃあありませんか、そいつはそれを着てるんです。
歯磨き粉のパッケージのほうがまだマシな柄がついてるぞ、と言っても本人はどこ吹く風、嬉しそうにニューヨークの路線図が描かれたぶかぶかのTシャツを着て街を闊歩しているのだからどうしようもありゃしません。
流石に街を出るときは少しまともな格好をするらしいが、その格好とTシャツの区別もついちゃいませんでしょうよ。
噂によれば、冬でもTシャツで外をうろついていることがあるらしくてね、いくら人々に奇怪な目で見られようとも「時代が私のセンスに追いつかないだけだ」と言い張るのだから、最早手の施しようもない阿呆、阿呆なのです。
ああでも、センス自体は壊滅的でも、洒落っ気はあるみたいでね。
化粧の類は一切施そうたァしないくせに、いつも耳にピアスを三つもはめてやがる。
工具やら我楽多を模した珍妙な耳飾りは一等気に入りの品らしくてね、褒める喜ぶが、気持ちが悪いと貶すと更に喜ぶという不可解さ!
「ピアスは威嚇の為にしてるから、恐がって貰えたら本望だ」とか言っちゃあいたけど、こいつは本当にどうかしてるお思いませんかい?
人嫌いとは聞いていたが、一体何処へ向かっているのやら、きっと本人にしか分からないし、こちらも変人の仲間入りは願い下げ、分かりたくもないってもんです。
最近では「なんかもっと神聖な感じにしたい」とかなんとか嘯いて、ピカピカに磨いた五円玉を片耳にぶら下げようと算段をつけていやがるが、そんな事をされたら数少ない友人が可哀想だろう?
だから止めておけ、とは言うだけ言ってみたんですがね、まあ、そんなの聞くわけもないんですわ。
まあ初めから分かっていたから、別段怒りも湧きませんて、今更ですから。

いやあ、すいませんね、貴方、愚痴なんか聞いてもらって。
一応友人なもんで、悪いようには言えんのですよ、忌々しいことに。
ん、なんですって?
そいつは普通が嫌いなだけな天邪鬼なんじゃああないのか、って?
はあ、いえね、外見の事だけ普通が嫌なだけだろう、で済むんですがね、問題はそれだけじゃあなくってね。
奴の自分なりのこだわりが外見だけならまだしもね、あいつ、内面も相当ひねくれているんでね、それが全く困りモンで。

まずはなあ、どうしようもないくらいに自信家なところに腹が立つ。
小説を書くのがどうやら趣味の一つらしいが、面白いと感想を言えば「当然だろ」と鼻高々に返されるし、つまらないといってやれば「お前にセンスがないんだよ」と嘲笑わらってくるんだから、いやはやこれにはむかっときてね。
そのくせあいつ、自分が納得しないもんは、何処の誰に褒められようとも「こんなものを生み出しちまった自分自身に絶望だ」と唾を吐くから、人の事を不快にさせることにかけては天才的だと言わざるを得えねえっつうもんです。
料理や裁縫にもそれなりに嗜みはあるんだけんども、誰の評価を聞いたところで自分の判断とそっくりぴったりあわねえモンは「審美眼のない奴め」とその細い目で睨みつけるというのだから、面倒くさいったらありゃしない。
せっかくそれなりにいいもん作っても、ありゃあ性格のせいでだいぶ損しているところがあるなあと、常々思っちゃいるんですがね。
まあ、一通り褒めておいたり、ひたすら相槌打ってりゃあ勝手に機嫌も良くなるから、楽といえば楽ですけれど。
ああ、他にもあるんですよ、嫌なところが。
先ほども申した様に、どうにもあいつは人のことを不快にさせる物言いを躊躇わないところがありましてね。
嘘を付くのが嫌いだと言えば聞こえはいいんですけども、実情はそんなにいいもんじゃあないですわ。
どうも奴は自分の考えを秘めておいたり誤魔化すのが苦手なようで、普通人が言わない一言を躊躇いなく口にしちまう阿呆みたいで。
ああいや、まあ確かにあいつに悪意があるわけじゃあないんですよ、嫌な奴だが悪い奴ではないんでね。
ただ本当に、奴は他人の言われたくないことをズバッと言っちまうところがあって、なんというか、すぐに人を傷付けちまうんですわ。
その点のついては本人も一応反省はしているみたいなんですがね、やっぱり嫌な奴なんですよ。
何て言うと思います?
「こっちは嘘を言ってないのに相手が勝手に傷つくだけだから、面倒見切れるわけがない」って言うんですわ。
頬まで膨らましやがって、改善させる意思なんて、これっぽっちもありゃしねえ。
友達が減るぞ、と脅してみても「それくらいで離れるやつは別に良い、勝手に離れていったらいいさ」と笑っていうのだから、まったく嫌な性格をしている奴もいたもんだ。
その上どうにも常識も持ち合わせちゃないようで、社会のうちの了解ごとも下らないと切り捨てる程の自分勝手な面もありやがる。
他人と行動することが苦痛で仕方ねえみたいですけども、その根本には「自分の責任は自分で取るから、お前もお前の責任取れよ」という冷酷極まりない信念があるんでしょうよ、基本的に他人の失態、成功については一切の興味を持たねえ。
例え他人の失敗が自分に影響を与えようとも「まあ、関わると決めたの自分だしな」と、当人の気持ちには一切の配慮をせずに他者の想いを拒絶しやがるんでございます。
かく言う私もあいつの頼まれごとを何度か間違ってしまったことがあったんですが、あいつその時「あんたに頼んだ自分の責任だからな」とかなんとか言って、謝罪も受け入れやしねえのです。
全く、嫌な奴でしょう?
例え誰かが困っていたとしても「手の届かんところはどうしようもないでしょうよ」とか言って、手の届く範囲よりも外の人には手を伸ばやしないし、内の人にも求められるまで助けは出さないのだから、これこそ冷酷非道というやつだ。
最近では人嫌いが過ぎて山奥に籠ろうと狩猟の免状まで取ってきたが、確かにこんな奴は人里よりも一人寂しく山奥に暮らすがいいに違いない。

こんな輩が今までよく生きてこれたなあとは、私も常々思っているんですけどね、貴方もお思いになるでしょう?
だからね、聞いてやったんですよ、これから社会に出なきゃならんというのにお前は一体どうするつもりだ、ってね。
そしたらあいつ、ニヤッと笑って言いやがった。
「成る様にしか成らんだろうし、今まで生きてきたのなら死ぬ迄は生きてられるさ」
ってね。
いやあもう、屁理屈ばかりで嫌な奴だと、私は改めて思い知らされちまったね!
まあ、なあに、私も本人にもっと生きやすく生きればいいのにとは常々思っているからね、本人にも言うんですよ、色々と。
けんどもあいつは私の批判を聞いてもこれっぽっちも気にかける素振りがないときた。
どうにもあいつ、今の生活を大層気に入っている様で、何ひとつ不自由も覚えてはいないんだとよ。
成る程これだけの自信があるならさぞ人生も楽しいのだろうなと、嫌な奴だけど思っちまうことが多くてね。
たまに私も、あいつの生き方が少し、すこーし羨ましくなってしまうんでさ。
ま、そんなことを言うとあいつは「自分で勝手に幸せになったらいいのに、馬鹿だねあんた」なんていうんですがね。

はーあ、話したら少し、すっきりしました。
これからそいつとちょいと出かける用事があるんで、また何かあったら聞いてくだせえ、次は貴方さんの愚痴も聞かせてもらおうかな。

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「ひとつ、知人の話を聞いておくれよ/自分大好き!/五目いなり」への4件のフィードバック

  1. 上手上手、話し方が上手いねぇ。
    そうか。自分好きが人嫌いに変わるのか。残念ながら俺は人が大好きだから、どうにもこれは解せそうにないな。逆に、人を嫌うそぶり、人に興味のない素振りがあなたのパーソナリティーを確立してるのかもね。きそえんの時はそんな風には感じなかったけど大学はいってから変わったの?それとももとからこの感じ??

  2. 自分についてを表現することに、客観的な視点を使われていて「この手があったか」と思いました。正しくは、私もそうすればよかったなぁと。

    自分といえど、常に一つの基準で考えているわけではなく天使と悪魔的な、アンビバレントな感情が心の中には少なからず存在するものかなぁと思います。
    語り手が知人の愚痴を垂れるという構成がベースで、さらに知人自身の視点とセリフもはさまれていて。知人に自分大好きの要素を、語り手には知人を批判させることで自己批評の役割を担わせているように思えます。
    私にはなんだか人の精神、思考構造をまるっと構図にした文章のようだと感じました。
    読んでいて不思議と自分を内省している気分にもなりました。

  3. ただのだらだらした自分語りになっていないところが羨ましいというかなんというか。
    人を傷つけた自覚があると、それだけ相手のことについて何かしら考えるところがあるっていう証拠らしいですよ。本当に興味がないのなら記憶にすら残らないんだとか。実際無自覚ならそりゃ気づきませんよね。とても人間っぽいです。
    読んでいて本当に愚痴聞かされているような気分でした。まぁ、すらすらと頭の中に入ってくるあたりは流石です。

  4. 遅れてごめんなさい。
    こういう、話してる言葉そのままみたいな文章を書けるの、すごいです。私はいつも「これはこう」みたいな文章にならない概念のようなものが心に出てきて、それをどうにか文章に変えようとするのですがこの作業に一番苦労します。今書いているこのコメントも、わたしの気持ちなのか正直わかりません。
    読んでいる最中に思った正直なことは、Tシャツばっかりなのはダサいしモテないだろうな、ということと、オシャレしないであけるピアスもダサいしモテないだろう、五円玉なんて絶対にやめた方がいい、モテないから、ということくらいなんです。だからいつもそれっぽいことをひねり出してコメントしてます。ごめんなさい。

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