好き嫌い相対論/自分大好き/三水

母校から手紙が届いた。
よそよそしいお仕着せ封筒に、判で捺された恩師の名前。

封書のくせにやけに薄っぺらいそれを手に、なつかしさより戸惑いが勝つ。心当たりはまったくなかった。

眺めていても、流れ作業を思わせるインクの滲みが気になるだけである。宛名と住所だけは手書きだが、なんだかそれもえらく角張っていて、お世辞にもきれいとは言いがたい。不揃いな四角が並ぶその手跡……

ああこれ、自分の字だ。

それでわかった。
これは所謂、『未来の自分へ』ってやつだ、と。

「四年後の自分に。
今あなたは高校三年生、四ヶ月後の旅立ちに備えています。
…… 今何をしていますか?忘れてしまったかもしれないあなた自身からの手紙です。落ち込んでいたらこれからの勇気のために。希望に輝いていたら足元を見つめなおすために。この手紙を役立ててください。」

出だしは皆同じ。素っ気なく印字された定型文でも、時を挟めばまた、恩師の声に聞こえて懐かしい。
当時ちょっと疎ましくも、歯がゆくも思っていた人だが、今振り返ればよき教師、よき人間だったと思える。
時は偉大である。まぁ、思うところもあるけれど。

さて、ここからが『私』の文だ。
ちと恥ずかしいが原文ママでお送りする。過去を慈しむ広い心でお付き合い願いたい。
…… 関係ないけど、あいっかわらず汚ねえ字だなおい。

何はともあれ十八の私、一行目にはこうあった。

「何がしたいか決まっていますか?
決まってないかもしれません。今は全く想像がつきません。
早く知りたいです。でも決まらなくても私らしいかも。」

はい初手から右ストレートかましてきました。おまえ、いくら自分相手だからってちっとは遠慮しようよ。物事には順序ってものがあるよ?
…… ごめんなさい決まってないですお察しの通りさすが私。

でも、とりあえず手に入れたいものは見つかりました。それ目指して頑張っているつもりです。
多分、進歩だと思います。はい。

次いで一行挟んで、
「大切な人を大切にできるようになっていますか?
なっているといいけど、なってないならとりあえず今すぐ連絡しなさい。
四年前の私にできないような、レベルの高い気遣いをしてください。
今の段階ですでに返済しきれないくらいの、たくさんのいい子にたくさんのいい思いをもらっています。名前は書きません。覚えてないなら人としてそれまでてすから。」

待っていろいろつっこみたいけど、とりあえずなんでそんなにケンカ腰なの?主旨わかってる?思春期?反抗期?
そうなんだろうなあ、トガってるなあ十八の私。
あとレベルの高い気遣いってなに?返済?ん?日本語がんばろうな、あと字。

…… うん、まぁ云いたいことはなんとなくわかった。ひとまずめぼしい人にLINEするね。

四年前にはこんな手軽に人とやり取りできるなんて、夢にも思ってなかっただろう。
それから、『大切な人』が側にいることが、どんなに貴重で、素晴らしいことかも。
連絡すれば、いつでも会える。
側にいなくても、手の届く範囲にいる。
本当にそうかな?考えたことある?
…… なかっただろうなぁ、私だってそれに気がついたのはほんの一年前のことだった。

だけど、だからこそ、大切な人を大切にしたいって意気込みは、わるくないと思うよ。私にしては、上出来かと。

それからまた一行あけて
「少しでもましな自分になれていたらと思います。」

『ましな』自分ねぇ。はい。

そして最後に
「今の私は大嫌いです。よろしく。」

わざわざ付け加えるようにして、いくらか余白を残して手紙は終わっていた。

若いなぁ、とても若い。いっそ幼い。
拙いし青いし汚い。
よろしくって、なんでもかんでも未来におっつければいいってもんじゃないよ。なんでいつも現状に諦めちゃうかな。だからって未来に期待してるわけでもないじゃん。
いやまぁ、そういうとこは今も変わってないか。
だいたい四年経とうが十年経とうがそう簡単に人が変わるわけがないだろうに。若いなぁ、自分。

でも四年前のあなた、私は結構好きだけどね。

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「好き嫌い相対論/自分大好き/三水」への3件のフィードバック

  1. 過去の自分の文章を見て青いなぁってなる感じすごいわかりすぎて困りました。青くてむず痒くてふふってなるけどその頃の自分のことはとっても愛おしい。三年後の自分も今の自分を愛おしく思えたらいいなぁって思います。原文ママ出してきたところがいいですな。

  2. タイムカプセルとかから出てくる未来への手紙、あれいっつも気になるのが、宛先として果たして今の自分はふさわしいか?ということで。自分も小学校時代の手紙のおかげで国大に決めたことを思い出しました。だめだ自分語りになってる。
    未来への手紙とは逆に、拝啓15の君へ、とか過去の自分へ宛てた手紙もありますよね。折角なので、余白のところに返信を書いてみてもいいのかもしれないと思いました。

  3. 自分が書いたことあるのは大抵当時の周りの友達にこんなこと書いたんだぜ~っていう話題になるようなネタばかりでちゃんとしたメッセージを未来の自分に書いた覚えが無い。そういうのを読み返すと本当にスベってるなと凄く微妙な感情に見舞われる。その反面、凄く真面目というかちゃんと未来の自分に何かしらの形で響くようなことを書けるのは大人だと思った。あと、たまに笑いを誘ってくる感じが結構好き。

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