/デート/waku&ちきん

「ゆーうっ!」
改札を出ると彼のおおきな背中が見えたので思わず走って飛びつく。彼はびくっと小さく肩を揺らして振り向いた。丸い目がさらに丸くなっていたけれど、私の姿をとらえた瞬間、ふっと柔らかく細められて、その優しい目は、言葉よりも雄弁に愛しさを伝えてくれるようで、胸の奥がきゅうっとなった。「おはよ」と笑って、白いマフラーを軽く直し、いつもみたいに右手をさし出す。

「遊園地までの道、わかるの?」
「わかんない。でもみんなについていけばたどり着けるでしょう」
彼は下調べなんてしてくれない。私もめんどくさがりで準備なんてしないから、いつもデートは行き当たりばったりだ。でも、なんだかんだいつもそれを楽しんでいるから、何も言わないけれど、もうこれが2人の形なのだと認めてしまっている。

 

彼がコーヒーカップを思いっきり回そうとするのを必死で止めたり、立ったまま乗るジェットコースターに、嫌がっているのを無理やり引っぱって連れて行ったり、少しだけちょうだいと言ったくせに、アイスクリームをけっこう食べてしまって怒られたり、ありきたりのやりとりであるはずなのに、自分たちに限っては特別のように愛しく思えるから、恋というものは恐ろしい。

その只中にいるときにはたくさん笑って、いまの瞬間をとらえるのに精いっぱいで、演技も作り物もぜんぶ嘘ではなくて、何も自覚できない気がする。だけど、「これが青春なのかもしれない」とふいに冷静になる瞬間もあって、そのとき、いつかこの時間が終わってしまうことや、いまを決定的な時間だったなと思えるのは、必ず後になってからでしかないことを思い出し、その切なさを遊園地のせいにしたりする。

 

「イルミネーション始まってるよ!」
彼が子供のように目を輝かせて言ってくるから、思わずふふっと笑った。私を喜ばせようとするよりも、自分が率先して楽しんでしまう彼こそを、愛しく思ってしまう。
「これ、観覧車の上から見たら綺麗だろうね」
「観覧車、乗ろうか」
「え、でもすごく並んでるよ」
「いいじゃん、せっかくここまで来たんだし。乗ろう!」
けっきょく私よりも彼の方がノリノリで、観覧車の列の後ろに向かってかけていくから、少し重たいブーツで追いかけた。

 

「寒い…」
「だから並んでるよって言ったじゃん」
「でも乗りたいんだもん。ねえ、あっためて」
抱きついてくる彼を、
「人前でいちゃいちゃしないで」
と引きはがす。
「やだ」
またくっついてきて、それをまた引きはがす。何回かそれを繰り返すと、もうめんどくさくなって、されるがままになってしまった。

もう、くっつくことも恥ずかしくないし、沈黙だって怖くない。でも、お互いにすごく気のおけないような気持ちでいても、彼は、無邪気に甘えてこなければならないし、私は、照れたように軽くふざけて突きはなす役目を忘れない。そうやって何の相談もなく、ただ甘いだけでない、楽しい2人のバランスを保とうとするのは、やっぱり私たちは特別なんだって、どこかで思いたいからなのかも知れない。

 

ようやく自分たちの番がやってきて、乗り込むと、隣り合って手を繋ぎながら、静かに外を見つめた。

また、今日が終わってしまう。

「あっ、こらやめろ!揺らすな!」
「こわいの?」
「こわくないけど落ちたらどうするんだよ」
「こわいんじゃん」
「こわくない!」
何も分かっていないようなフリをして、無邪気で優しい目をしながら、こんな風にしか誤魔化すことのできない私を、許して笑わせてくれる。いつまでも下にたどり着かなければいいのにと思いながら、たくさんの光の粒をみた。

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「/デート/waku&ちきん」への2件のフィードバック

  1. 企画の話し合いそのものをネタにする系と、正統派にプロット添削や共作を行うものがある。後者は、よっぽど書く文に個性があるとかじゃない限り、読者にとっては「いつもの文章を書くやつ」と変わらなく見えてしまうという点もある。でも、何より作り手にとって得るものが多い手法だと思うから、やはり裏話が見たいものだなあと。どうやってふたりを混ぜたんだろうこの文章。(エーオー)

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