弔うー弔われる/プロット交換/エーオー&θn

エーオーさんの文章はこちらです
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川底の灯を掬わない/θn

「このまま流れていけば、海に着くでしょ?そうすればどこへでも行ける気がする。」

「そうかな」

「一人だとやっぱり寂しいからそのときは私と一緒に来てね。」

「」

私はどう答えたんだったか。全く思い出せない。

***

ジロジロと眺めていた私が悪かった。

「きんぎょすくい」とおおきく書かれた向こうに座る小さなおじさん。汚らしいウィンドブレーカーとくすんだチノパンという容貌は華やかな屋台の明かりの中では随分浮いて見えていたのだ。
あまり「そういう人」は見てはいけないよってそう親にも言われていたような気がするけど、それを思い出したのは深くかぶった野球帽の奥に見える虚ろな瞳が、私の姿を捉えた後だった。

「お嬢さん、金魚掬わんか」

お嬢さんなんて歳でも、まして屋台で金魚掬いなんてできるような歳でももうない。祭囃子なんとなく懐かしさを感じて来てみたけれど、親子連れかカップルばかりで居心地悪く、帰ろうとしていたところだったのに。

「いや、」
「金魚がね、お嬢さんがいいって言うとるの」

ぐにゃりと顔ごと歪めたその異形の姿に、私は断ることができなかった。

「まいどあり」

結局1匹も掬えなくて、それだっていうのにお情けも断りきれず1匹もらってしまった。こいつ、どうやって飼えばいいんだろうか……。
なんだかこのまま物色する気もなくなって、ぶらぶらと喧騒から外れていくように歩いていたら川の方まで出てきてしまった。

一面の灯がそこにあった。

毎年祭りに合わせて灯籠流しが行われているその川は、幻想的といってしまうとなんだかチープなくらいに綺麗だった。

海を目指す死者の命。
「どこか」へ行こうとする意志と、儚い強かさ。

ここだ、ここ。この場で香弥は輪郭を崩した。

***

「凛奈が良いって、私が思ったの」

ペアを組んでください、とか授業で言われると必ず香弥は私のとこまで歩いてきてそう言った。

「まあ私はいいけど」
「自分の意志持ったほうがいいよ、凛奈」

自分の意志。香弥はよくその言葉を使った。強く、流れに逆行することも厭わない。敵も多かったけどそれすら問題にしない。それが香弥。

「大学に行けば私、この町からいなくなるかもよ?凛奈一人で生きてける?」

なんだか、そう言われるのを望まれているんじゃないかと思って私は無理かもと呟いた。嘘を吐いたわけじゃない。何気ない、会話だったから。

「だったらさ、私のとこきて全然いいからね」
屈託なく笑うなあ、ぼんやり考えた。

***

川の流れをぼんやり見つめているとき、人はろくなことを思わない。

「結局、香弥は卒業したらどこ行くの」
「どうだろう、どこにも行けない気がする」
「どこにも?」

大学受験を終えて久しぶりに会ったとき、香弥は随分疲れていた。てっきり志望していた大学の名前を自信満々に言われるものだと思っていただけに、私は面食らった。

「川ってさ」
「え?」
「このまま流れていけば、海に着くでしょ?そうすればどこへでも行ける気がする。」

香弥からこんな危うさを感じたのは初めてで
「そうかな」
なんて、深くものを考えられない私は返す。

「そうだよ。……最近、息が上手くできなくなるの。居場所がないような気がして」

一人だとやっぱり寂しいからそのときは私と一緒に来てね。

なんだか、望まれてないような気がして、私はいるよとは言えなかった。心の伴わないどうってことないことを言った。私はそれを思い出せない。

大学が分かれてからは、当然だけどぐっと会えなくなった。
私は時間と人の流れに逆らうこともせずに、ある意味忙しく日々を暮らした。

***

「今週どっかで会えない?」

大学1年の7月くらい。不意に香弥から連絡があった。

レポートが立て込んでいて、なんとか「ごめん」と返信する。しょうがない。しょうがないよなぁ。歩いてきてもらえないと、私は歩いていけなかったのだ。香弥はそのときどんな顔をしていたのか。

それっきり。

香弥がいなくなったと聞いたのは高校を卒業して半年くらいたった後。もうすぐ寒くなるくらいの日のことだった。

***

妙に鮮明にあの屈託のない笑顔を思い出して、胸がぐっと苦しくなった。
「香弥」
あてのない呼びかけは決して届くこと無く足元に落ちる。

握りしめた紐を辿っていくと、せまい世界を漂う強さと目があった。
「もういいよ」って金魚が私に呼びかけた、ような気がした。

灯籠は今流されるばかりだったはずの私を取り残して、ゆらゆらと揺れてどこかへ行ってしまう。
このまま海まで行くのだろうか。
流れて行く死者の魂が、灯が、私の今後を照らしてるなんてそんなの悪い冗談だ。

いつかどこかで、なんてまた一つ嘘にもならない呟きを投げて私は手の中の命を川に流す。私が良いって言ってくれたから、だからこそ、私はそれを手にしちゃいけないんだ。また私は知らず知らずに突き放してしまうから。

どこまでいくかな、どこまでいったのかな。
君はもう帰ってこないんだねって思って、私は上手に呼吸をしていた。

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「弔うー弔われる/プロット交換/エーオー&θn」への1件のフィードバック

  1. エーオーさんの世界観とΘnさんの表現力が合体していて、ときめく言葉がいっぱいで、なんか、ただプロット交換をしただけのようには思えず、共作のいいところがすごく出ているような気がした。

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