冬の誘惑/ぜんぶ雪のせいだ。/ピエロ

受験生の僕に、恋愛をする時間はない。寝て起きて勉強して、の、繰り返しの日々。今やりたいこと確かに相当我慢してるけど、僕には夢があるから、この現状に不満はない。将来なりたいものになるために、今を犠牲にしてるだけ。あと少しの辛抱の先に、楽園が待ってるんだ。だいたい、あと約三週間後にまで迫ったセンター試験を前にして、世の受験生は余裕なのかよ。三週間って、約五百四時間だぞ。時計の針があと五百四周したら本番だ。雪も降ってるこんな寒い日に、外でいちゃいちゃしてる時間あるなら単語のひとつやふたつでも覚えられるわ…。

 

二つの寄り添う影の数がいつもよりも多いのを横目に確認しながら、僕は冬期講習へ向かっていた。

 

僕には、来年のクリスマス、一緒に過ごしたいと思う大好きな人がいる。

 

失敗したくない。だから今じゃない、第一志望に受かったかっこいい僕になってから、想いをちゃんと伝えるんだ。受験頑張りきれたのはあなたのおかげだと。あなたに興味を持ったからあなたが通う大学に一番行きたいと思ったんだと。この前くれた、僕への応援メッセージ入りのキットカットの周りの包装紙、まだ捨てずに机の上に飾ってるんだと。あなたがこの塾でアルバイトしてくれて、僕と出会ってくれて、心から感謝しているんだと。隠してきた恥ずかしいもの、言いたいけど言えない言いたくない言ってはいけないこと、すべて吐き出せる日まで、あと何か月。卒業するまで待つ。

 

…はずだった。

 

はずだったんだけど。

 

 

冬期講習からの帰路、前から歩いてくる女の人を、彼女だと僕はすぐに認識した。スーツ姿でない彼女を見るのははじめてで新鮮でまぶしかった。彼女も僕に気づいた様子で、いつものように手を振りながら近づいてきて、立ち止まった。コートにのった雪を払いながら寒そうな仕草を自然とする彼女を、抱きしめたいと思った。マフラーに隠れてよく見えない口元から発せられた言葉が、生活騒音にかき消されて聞こえない。聞き返す僕に、彼女はふざけて無視して歩き出そうとする。そんな彼女の腕をつかんだ。驚いたように彼女は振り返る。こんな寒い外気に触れているとは思えないほど上がり続ける体温は、制御がきかない自分を何よりも正直に表していた。僕はもう狂ってしまった。

 

「好きです…。」

 

 

 

 

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「冬の誘惑/ぜんぶ雪のせいだ。/ピエロ」への3件のフィードバック

  1. 「僕」っていう言葉が多く使われているのが印象的です。まあそれはそれでアリなのですが、もしリアルを目指していくのなら表現により磨きをかけるとより良くなっていくと思います。色々な彼女への想いを出した表現は、愛が伝わってきて非常に良かったです。

  2. えええ展開早すぎやしませんか!?
    なんでその日彼は我慢できなかったのかがよくわかりません。

  3. 受験生という経験をしてこなかったせいか、あまり主人公に感情移入できなかったのだが、そういうもんなのだろうか。展開が早いというコメントがあるが、ぜんぶ雪のせい、心情と雪のリンクをもう少し言葉を尽くして書くとよいと思う。

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