窓越しに/ぜんぶ雪のせいだ。/みくじ

「あれ、ピアス開けてたっけ。」

ベッドに寝転んでいた私がふと横を向くと、ちょうど机に向かっていた彼女が顔の横の髪を耳にかけた所だった。

「ちがうよ、ほくろ。よく見間違えられるんだよね。」

そう答えながらも指はキーボードを叩いている。

ピアスホールのように見えたそれは、目を凝らして見ると確かに小さなほくろだった。
ほくろというのは感じで黒子と書くだけあって、たいてい黒に近い茶色とかだと思う。しかし彼女のそれは薄い茶色で、よほど近づかなければピアスホールの皮膚のくぼみに見えるのも仕方ないように思えた。

「いっそ開けちゃえば。」

「それも考えたんだけど、バイトがピアス駄目なんだよね。」

「面倒だねえ。」

彼女の視線は尚もスクリーンに固定されていたが、私は一度彼女の方に向けた首が錆びたブリキ人形のように固まって眼球も何故だか動かせなくなった。

仕方ないので視界にわずかに映り込む手元のマンガをひっくり返し、両手で頬に添えてゆっくり首の向きを正面に治した。

グギギギと音が鳴りそうな動きはどう見ても、人類が滅びて数百年地球に取り残され肩が小鳥の休息所とかしたロボットのそれだったがそれが目撃されることはなかった。

よって第三次世界大戦での化学兵器の打ち合いも、人類の滅亡も取り残された人好きのロボットも急に動いた止まり木に驚き飛び立つ小鳥たちも存在しえなかった。

手元にあった漫画本をまた手の上で開くと、角が数ミリメートルほど折れていた。しかしこれは一年ほど前からコミックレンタルを開始したレンタルショップのものなので問題ない。

もしこれが彼女の蔵書だったなら私は二度とこの家の敷居を跨ぐことが叶わないだろうし、私の家の郵便受けに生卵くらい投げ込まれるかもしれない。
生卵にまみれた払込用紙を持ってコンビニに行くのは御免だし、なによりこの巻が終わる頃にホワホワと湯気を立てているであろうビーフシチューを食べずには帰れない。
思いのほか重たくなってきた展開に気詰まり、また顔を上げると結露でびしょびしょになった窓が目に入った。

「今日帰らなくていい?」

思えば最初から半分くらいそのつもりだった気もするが、一応声に出した。

聞こえているのかいないのか、返事が帰ってこないのでまた顔を下に向けた。

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「窓越しに/ぜんぶ雪のせいだ。/みくじ」への2件のフィードバック

  1. 読んでいて伝わる、少しぎこちない空気感がとても良いと思います。結露だけだと雪とわかりにくいかもしれませんね。

  2. なんだかとってもせつないですね!
    二人の関係性を想像するのが面白いと感じました。友達関係なのか、それとも恋愛的要素も孕んでしまっているのか、みたいな。「私」の思考が飛び飛びなところも好きです。

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