逆光源氏計画/ぜんぶ雪のせいだ。/三水

ゆきやこんこ あられやこんこ

一月の浜辺には、犬ではなくユウタくんが駆けまわっている。

「子どもは若いなぁ」

至極当たり前のことをぼやきながら、高野さんは焚き火に木を足した。
手渡されたままに揺する鍋から、時折何かが爆ぜる、乾いた音がする。

「コレなんですか」
「珈琲の豆です、そら、もう香りがたつ頃でしょう」

言われてみれば、どこか甘い、焦げたようなにおいがする。
いま少しと顔を出せば、煙と雹と、真っ向から浜風がぶつかってきた。

「いやあ、それにしてもこれはいいネタになりますわ、伝説ですよ伝説」

大雪の浜辺で焚き火。
そりゃ後から聞けばそうだろうが、今のいま、頬が凍ってぴくりとも動かない。
ヒュウヒュウと風のなく中、走り回る子どもの足音が低く韻をとる。
木と豆の弾ける音、空高く降るとんびの鳴き声が調子を合わせた。

高野さんは鍋を取り上げながら、ユウタくんに向かって声を張り上げる。
見ればすっかり磯の方で、うずくまる様はマッチ棒ほどの大きさに見えた。

ふと振り返ると、周回ごとに届けられた貝殻が列を成していた。
端の、新しいものほど大きく、そして…… 湿っている。
段々躊躇しなくなってきたらしい。

ミルに納まってかえってきた豆を挽きながら、若くない私は火に向き直った。


一人分のりんごジュースが温まって来た頃、背中に何かが乗っかった。悪い魔女よろしく焚き火に突っ込みそうになるのを、かろうじてこらえる。

「手!」

無邪気に突きだされた手を手袋ごと握る。と、指の間からじわりとにじみ出る、さぞ塩辛いだろう、水。
あーあーあー。
言葉にならない嘆息と共にひっぺがして、握ったもみじに思いの外強い力で引っ張られた。浜辺でたたらを踏み、膝の毛布が落ちて、砂まみれ。おまけに踏んづけてまたよろける。

「後ろ!」

そんな私にはお構いなく、言うが早いか、背中にずんと重みがかかる。
砂浜を足指でつかむように、なんとか抱えて立ち上がれば、彼は高々とちっちゃな拳をかかげた。

「海!」

どこまでと問えば、ずっととのお答え。
私だけ濡れるのではと問えば、うふふとお返事。

悔しくてぐるぐる回ってやると、雪を飲んだと大騒ぎする。
いっそ楽しくなってきて、波打ち際まで走ってみせた。

子どもは風の子、七つは神の子。
一年廻ってまた来年。
この背に乗ってくれるなら、海の底までお供しようか。

「青田買いにもほどがあるぞ、おまえ」

ずっといた父がそういって、また薪をくべた。

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「逆光源氏計画/ぜんぶ雪のせいだ。/三水」への2件のフィードバック

  1. どこかほんわかする書き方とすこし古典的(?)な書き方のマッチ具合がたまりませんね。最後でうまく落とされているのも楽しいです。
    線が入っていて場面が変わったのは分かったのですが、読解力のないせいか、それ以上がよくわからなかったです。。

  2. 情景が浮かんで、なんだかほっこりした。表現が凝っているのにリズムもよくて、個人的にとても好きな感じだった。線よりも多めの改行の方が、雰囲気が出ていい気がする。

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