分解/全部雪のせいだ/みかん

予期していたよりもずっと早く、身体の分解は始まった。まず、下半身から。細かく格子状に切り込みが入れられ、ブロックのようにボロボロと崩れ落ちていく。身体から分離した小さいブロック達はそれぞれが別々の完結した個体に変化し、直に現実の空気を吸い込んで一瞬で腐敗する。下半身から分解が始まったのは、せめてもの優しさのつもりだろうか。そんな媚びへつらいに苛立ちつつも、既に上半身は水になっていた。水は細かく分解され、四方八方散り散り行き、幽き霧となる。霧は更に分解され、もう眼には見えず、生臭い匂いが残るだけ。そして、最後に顔。最初は上半身と同じように水に変化していったのだが、水になって2.3秒後には悲しくも雪に成り下がった。雪、水にも氷にもなれないどっちつかずの存在。最後の私の形態としては憂鬱ではあるがふさわしい。引力に身を任せ、ゆらゆらと堕ちていく。雪は分解を続け、ただただ堕落する。

ついに私の身体は全てカタチを持たなくなるのだ。私は観念だけの存在になる。しかし、私はそれでよかった。この未分化の世界に何の関心を持たない私にとって、身体は無用の長物だった。世界との接点など思考の邪魔でしかない。世界だって私の欠落に気付いてもいないだろう。世界は私が何をしようと見向きもせずただ息を吸っているだけ。そんな不躾な世界と私は決別したかったのだ。

しかし、私はずっと雪のままだった。分解もせず、水にも氷にも毒にも薬にもなれない。私は身体と観念の境界線上でギリギリのバランスを取っている。どうやら私には研ぎ澄まされたそれだけの存在になる勇気はないようだ。ひたすらに空を舞い、倦怠の揺らぎに溶けていく。出来損ないではあるがそれ自体完結した世界の空で、私は滑稽にも宙づりになっているのだ。私の呻吟は誰の耳にも届かない。それは波ではなく、ただ一つの点になって留まる、そして、私の世界は、彼方に遁走していく。

これも全部雪のせいだ★

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「分解/全部雪のせいだ/みかん」への1件のフィードバック

  1. おかえりなさい! あなたの文章が大好きでした。だからまた見れて嬉しい。なにか自分で目指すところを見つけて、腐ることなく書き続けたらきっと凄いものができるんじゃないかな。
    そうですね、読ませる力が凄いのですが、抽象的というか観念的な話題にとどまっている。あまり他にはない文章だからこれは好きだしもっと見たい。すこしマンネリだなと思ったら、物語でその概念同士戦わせたり(伊藤計劃『ハーモニー』とか?)、エッセイというか日常の出来事に落とし込んで展開してみたらいいのではないかな。たくさん作品を読んで、自分ができそうな型を見つけてくださいね。

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