帰省の駅で/ぜんぶ雪のせいだ。/T

大学が冬休みに入って、年末最後のバイトを終えてから、鈍行と特急を乗り継いで帰省をした。

僕が生まれた街は、長野県の茅野市という山に囲まれた田舎で、とくに何も無い。別に、本当に何もないのかと言われれば、そうではないのかもしれなくて、寒いから高原野菜やら寒天が作れたり、スキー場があったり、あと全然関係ないけど縄文時代には人々が住む集落がたくさんあった「都会」だったらしい。歴史の教科書に載るような土器とか土偶がいくつか見つかったりしていて、駅のお土産屋さんにはそれらをかたどった「縄文クッキー」が、野菜と寒天の横に置かれていたりする。まさか土偶たちも、一万年の時を経て、自分たちがクッキーになるなんて思いもしなかっただろうが、そこは地元にまつわる何かをなんとか商品化できないかと考えた市の商工会議所の、町おこしへの涙ぐましい努力の証である。売れてるかどうかは知らない。

八王子から乗った「特急あずさ号」を茅野駅で降りて、夏以来に地元へ帰ってきた。重いスーツケースを引きずって外へ出ると、12月も終わりになるのに道路の脇に雪がまったく見当たらなくて、ちょっと驚く。ここに雪が多く降るのは、一月に入ってからとか、もっと遅いと二月の頭だったりするけれど、少しの雪も残っていない年末はあまり記憶にない。年末年始は全国的に穏やかな陽気ですと声の綺麗なアナウンサーがどこか言ってたのを思い出して、あ、そうだったねと納得した。

 

駅から実家が離れているので、親に車で迎えにきてもらうのを待つ間、久しぶりに駅の周りを散歩してみることにした。あまり寒いと動く気にならないけれど、穏やかな陽気は少しだけ体と心をほぐして、たまには運動するのもよいだろう…なんて朗らかな思考にさせる。とは言っても、駅の周りも何も無いのだけれど。(田舎あるある、「小中学生のたまり場やデートスポットがジャスコ」を地で行く田舎なので…)

それでも少し歩いていると、駅の駐車場の近くに、あの有名な縄文土偶たちがいるのを見かけた。気になって近寄ると、通称「縄文のビーナス」と、「仮面の女神」という土偶のレプリカが、「JOMON美土偶グランプリ出場」という謎の派手なタスキを掛けられて、寂しく並んで座っていた。どうも「全国の中でいま最も輝いている土偶」を決める大会(何それ…)に出馬しているらしい。まさか土偶たちも、一万年の時を経て、自分たちがミスコンに出るなんて思いもしなかっただろうが、これもたぶん市の商工会議所の涙ぐましい努力の証なんだろうな…と切ない気持ちになった。

…でも、自分がもし土偶だったら、クッキーになるのは別にいいけど、ミスコンに出されるのはちょっと嫌だなって思ったりした。長い間土の中にゆっくり眠っていたのに、いきなり掘り返されて、勝手に人前で、顔が良いだの胸が大きいだの言われるのはなんかムカつく。町起こしのためとか知らねえよ、私の体を利用しやがって女神だぞってイライラする。土偶なのだから、たぶん何か強大な力を持っていて、それを使って自分勝手な人間どもを呪って、来年の野菜と寒天を全力で不作にさせると思う。

…穏やかな陽気は、人を、朗らかな思考にする。

二十分くらいすると、駅に父が車で迎えにきた。自分の親だけど、少し会っていないとなんか人見知りしてしまって、「お久しぶりです…お迎えに来ていただいてありがとうございます…」なんてたどたどしく挨拶した。今年は暖かいねって言うと、こんな年めずらしいよねえと父も言った。土偶のミスコンの話でもしようかなとか思ったけど、父と息子で語り合う話題ではないよなあ、気持ち悪いとちゃんと思い直して、実家に着くまでの間は車の後ろの席に黙って座って外を見ていた。

0 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 5 (0 投票, 平均点: 0.00,  総合点:0  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。