日常と非日常のあわい/ぜんぶ雪のせいだ。/あおいろ

日常なんて、簡単に非日常に変わってしまうんだ。
それが普通だったのか、それとも特殊だったのかなんて分かるのは過去を振り返った時だけで、渦中にいる時には結局そんな判断は不可能なのだ。
 
 
 
それは、私が小学生の時だった。
ある11月上旬、とてつもない寒波が私の住むこの町を襲った。そしてそれに狙い澄ましたようにやって来た雨雲。この両者の出会いによって、この町は季節外れも甚だしい大雪に見舞われた。
太平洋側に位置するこの町は、冬は穏やかな晴れの日が続くことが多い。積雪シーズンの1月2月でもこんなに雪が降ることはめったに無い。交通機関は完全に麻痺し、行政も対応に追われ、人々は慣れない雪道を懸命に歩いた。
雪が降り始めたその日、私は父と外出していた。家に帰ろうと建物を出た瞬間、ぴゅううと吹いてきた木枯らしにびっくりし、静かに舞い降りる白いふわふわにはしゃいだのだった。
 
 
これだけで済んだら、まだ単なる「季節外れの大雪」で終わっていただろう。しかし一度降り始めた雪は全く止む気配が無く、二日、三日と続き、そのまま一週間、そして一か月が経過した。
政府も気象庁も、この異常な事態に大慌てだった。全国的にも話題になり、この1か月でたくさんのメディアが何度も何度も取材に来た。
最初は雪に大喜びしていた子供たちも次第に飽きてしまい、休み時間も外で遊ばずほとんどが屋内に残っていた。
人々は雪に慣れてしまったけれど、雪に対応していないこの町はちゃんと機能できていなかった。相変わらず電車やバスは遅れ、お店は品薄になることが多かった。
 
 
皆が、異常な冬だねと噂し合った。早く春が来ないかと、太陽をまともに拝める日が早く来ないかと、誰もが待ち望んでいた。
 
しかし、何か月たってもこの町に春が来ることは無かった。
 
 
 
それから現在。
あの日から、私が大学生になった今まで、この町には年中雪が降り続けている。
もはや私にとっては毎日雪が降ることが当たり前で、少しでもこれが止もうものなら心臓が飛び出るくらいびっくりするだろう。
 
これまでの年月、色々なことがあった。
あまりに雪にうんざりした人たちは、この町から出ていった。
反対に、雪を活用したビジネスを始めようと、この町にやって来た人たちもいた。
この町は、ちょっぴり雪に強くなった。この町に住み続ける人たちも、ちょっぴり強くなった。
そんな中弱っていく彼女を見舞うために、今日も私は病院へ向かう。
 
 
私には、年の離れた妹がいる。
生まれつき少し体の弱い子だったけれど、それでも小さい頃は雪だるまを作ったり雪合戦したり、外に出て何時間も一緒にはしゃいでいたものだった。もう十分大きかった私は半ば母親気取りで、彼女の行くところならばどこへでも付き添って行った。近所ではちょっと有名な、仲良し姉妹だった。
でも、そんな風に無邪気でいられたのは、もう何年前のことだっただろうか。最初は単なる風邪だったはずなのに、どんどん体調が悪化していった妹は、気付いた時には入院生活を送っていた。
 
「どう?体調」
「んー……まあまあ」
「……そっか」
最近日に日に彼女は弱っていく気がする。
儚げな表情の彼女は、今にも融けて消えてなくなってしまいそうだった。
ベッドに沈む彼女がフッと消えかけたのは、私の視界が滲んだせいだと、信じたい。
 
 
ある寒い夜。
毎晩寒いのだけど、なんだかひときわ冷え込むような気がしたある夜。
妹の容態が悪化したという連絡を受けて、私は両親と病院へ向かった。
そしてその数時間後、彼女はこの世界から消えてしまった。
いつかこの日が来るだろうとは思っていた。
けれど実際に来るとなんだか実感が無かった。
妹がいるという私の日常はあっけなく終わってしまった。
 
 
 
 
 
ようやく私が重い腰を上げたころには、時計はもうとっくに朝だった。
一度空気を吸おう、と私は病院のエントランスへ向かう。
建物から一歩出た瞬間、何かがおかしいのに気づく。
 
 
私は空を見上げた。
 
雪が、止んでいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ああ、そういえば。
あの日は、妹の誕生日だったな。
 
 

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「日常と非日常のあわい/ぜんぶ雪のせいだ。/あおいろ」への1件のフィードバック

  1. いつもよりかっちりした文章ですね。この方向性良いかも。物語、たくさん練ってください。題名のあわいという言葉の儚さと、ぜんぶ雪のせいだ。のキャッチコピーの軽さからの状況の重さ。雰囲気がつくられていますね。

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