もしものときに読んでね/遺書/いせ

遺書

 突然ですが、何を書こうか悩んでいたら、そういえば、ついこのあいだ2週間たらずの正月休みのために帰省したとき、ちょうど遺書を書いておこうとしていたことを思い出しました。

いやなにも久々の実家が弟たちに占拠されていて気にくわなかったとか、逆に大学に戻ることに嫌気がさして死にたくなったとかがではありません。

私が一定期間家を空けるときには、必ず自分の懐に入れて持ち歩くとあるマンガを今回はうっかり下宿先に置いてきてしまったというだけのことです。

少なくとも3日に一度はそのマンガのどこかしらのページをめくる、ということを2年近く続けていたので私は帰省早々にそわそわしだして落ち着きませんでした。ホントに肌身離さずの状態だったんですよ。でも私はけっこう熱されやすく冷めやすい性分みたいで、半年前に読んでいたものを思い出して「あ~、なんであんだけ熱中しとったんかな…」とかつて熱中した自分の趣味を恥じていたたまれなくなることがしばしばあります。だから、一回沸騰したにもかかわらずその後も60℃くらいに保ち続けているその状態(たまに思い出したように沸騰する)はわりと珍しくて。とはいえ、このマンガも冷めるかもなぁという若干の予感はなきにしもあらずなんですが。

ま、もとい、そんな私はそいつを部屋に忘れるというミスをやっちゃったんですね。マンガとの距離と反比例して、マンガに対する熱は再びじわじわと上昇し始めて、だいたい80℃くらいになったころ。うずうずと禁断症状におかされながら私の頭をササーっとよぎったのは「あれ、もしかしなくても休み中に何が起こるか分からなくないか。もし私が急な事故なんかで横浜に戻る前に死んじゃったりしたらもう二度とそのマンガに会えないんじゃない?…あ?それだけじゃなくてもし無事に帰れたとしても今後もそういう可能性はずっと残るじゃない?」という不安と恐怖。(※そんなに読みたかったなら近場の書店で買えばよかったじゃんって意見はおいといて)

-こうしちゃいられない、と私はすぐに筆をとりました。

 

『遺書        お父さん、お母さん

 親より先に死んでしまうという大変な親不孝をしてしまい、本当にごめんなさい。そして、もしこれを読んでいるのが私の両親でないのならどうかこの遺書は見なかったことにしてそっともとの場所にしまうか捨てておいて下さい。

 私はふたりの子供として生まれることができて本当に運が良かったです。感謝しています。手間をかけるだけかけさせておいて家の手伝いとか何もしなくてごめんなさい。(中略)

 さて、一つだけお願いしたいことがあります。私にはできれば棺に入れてほしい漫画があります。私の本棚を少し探してくれればすぐに見つかると思いますが、けっこうな巻数があって、その表紙は明らかに他と異彩を放っているマンガです。最後のお別れをするときとかにみんなに見えると恥ずかしいのでできれば隅っこで足下の方にこそっと隠してくれるとありがたいです。私はこんなジャンルのものも好んで読んでいたのかと恐らく驚かせてしまいますが、どうか死後までマンガ読みたいだなんて私らしいと笑って下さい。(以下略)〈本名〉より』                           

 

よし、これで今死んだとしても大丈夫、天国か地獄だかでもう一度読むことができるであろう。我ながら自分の意図をしっかり伝えることのできる文章がかけそうじゃないか。よいよい、この内容で清書しようと思ったまさにそのとき、私はこの遺書が必ずしも適切なタイミングで読まれるとは限らないことに気がつきました。もし私が横浜に戻ってすぐなんかにこれが母に見つかりなどしたら、パニックにパニックを重ねた彼女が泣きながら電話をよこしてくることは必須でしょう。事情の説明がやっかいである上、無意味に私の趣味嗜好がばれてしまうことになりなんだか気まずい感じの未来が見えました。では、弟にこの遺書の管理を委託しようかとも考えましたが、その方がよっぽど親に見つかる確率は高そうです。そもそもたぶん、知らん。意味分からん。勝手にやれ。と言って受理してくれないでしょう。

ならば、そのかくなる上は。どうするべきか良い方法と隠し場所をいろいろと考えましたが、最終的には「親よりも先に死なないように普段から注意深く生きていけば良いのではないか」という結論に至ります。そうだ、親不孝を前提に考えるのはもしものことといえどやはりやめておこう!(ホントは考えるのがめんどくさくなっただけ)

そしてとうとう私は何も残さずに実家を後にしました。

 

そんなわけで今回のテーマは「遺書」です。なんだか良いタイミングだったのかもしれません。往生際が悪いですけど万が一私が急死したときには、親に私のスマホのデータからこの文章が見つかればいいと願います。

遺書の隠し場所としては案外ちょうどよかったのかもしれません。(2017年2月1日)

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