白、黒、/春課題2/あおいろ

身に染みる寒さに耐えきれず、ようやく意識を浮上させた。
随分前から寒さは感じていたが、それを誤魔化しつつ目を瞑り睡魔に誘われるままに再び沈降することを繰り返していたのだ。
軽くため息をつき体を起こす。カーテンの仕業で部屋全体がぼんやりと青い。
――なんだか、海の中みたいね。
そう言っていたのは誰だったか。漠然と顔は思い出すことができるが名前がはっきりしない。思い当たるいくつかの名前に思考を巡らせようとしたが、末梢的だと思い放棄することにした。

カーテンの隙間が僅かに開いていた。そこから漏れる純粋な白い光が、隣にある白い背中に当たる。日に焼けていない為だけでない、先天的な色素の薄さに基づくのであろうその白さは透き通るようで、しかし実際には確かな質量を伴ってベッドを沈ませている。その上には、烏の濡れ羽のように深く艶のある黒髪が流れるように掛かる。自然と手を伸ばしその髪に触れる。掬い上げた黒いそれは重力に素直であり、再び白の上に落ち着く。
――ん……。
白い背中が微かに動いた。少しすると、スプリングの軋む音と共に水の如く黒髪が流れていく。こちらを向くその主の顔。
――おはよ。
いつもより細められた目に長い睫毛が影を落とす。白目に浮かぶ黒い瞳、黒い睫毛、黒い影。
また白と黒だ。

白と黒。善と悪。正と邪。明瞭に異なる二色の対比は、不気味ながらもどうしてこんなにも人を惹きつけるのだろう。しかしこれらは共存しながらも混じり合わない。一人の人間が併せ持ち、複雑に絡み、まだら模様を描く。決してグレーにはならない。白は白、黒は黒のまま。
その魅惑さのために、自分は心を掴まれて逃れることが出来ないのだろうか。白と黒で構成されている、その存在から。

……そんなことは無かった。思惟の淵から浮上すると、モノクロの顔の中で、緩やかにカーブを描く淡い紅が目を引いた。
無意識に息が止まる。身体の内から、欲望がせり上がってくるのを感じる。身体をよじり、体重を右腕にかける。左手は白い頬の線をなぞり、その先端で動きを止める。

上向いた睫毛はしっかりと自分を捉えていた。そしてその瞼は、瞳の奥を僅かに煌めかせた後、ゆっくりと下ろされた。

1 vote, average: 4.00 out of 51 vote, average: 4.00 out of 51 vote, average: 4.00 out of 51 vote, average: 4.00 out of 51 vote, average: 4.00 out of 5 (1 投票, 平均点: 4.00,  総合点:4  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。