良い乳房ー悪い乳房/jboy/おっぱい

フロイトが築いた精神分析の土台をもとに多くの学派が生じたが、とりわけメラニー・クラインが創始したクライン派は、児童・青年期における精神分析において多大な影響を与えた。彼女の重要な概念として「内的対象」というものがある。これはそれぞれの捉え方で捉えた、外側の対象の総体、イメージである。では乳幼児が初めて出会う外的対象は何か。もちろん母親である。

乳児の根底にはあらかじめ破滅的な不安がある。乳児は空腹により、たまらなく不安を感じているのである。母親からの授乳により、理解を超えたわけのわからないものとしての不安は緩和される。この時期は「口唇期」と呼ばれ、母乳という物理的な栄養だけでなく、乳児の心理的栄養(母親への関心)も授乳によって提供されるのである。しかし、もちろん乳児が空腹で不安に駆られ母親を呼んでも、常に母親が授乳により自分の不安を拭い去ってくれるわけではない。

 

クラインはここで「良い乳房―悪い乳房」という考え方を使って、対象との関係を説明した。母親が不在の時は乳房が不在なのではなく、「悪い乳房」として認識し、徹底的に攻撃を加えようとする。一方で自分の要求に従って授乳がなされるように、「良い乳房」の存在も同時に認識していく中で、「良い乳房」がある種「悪い乳房」の免疫として作用しているのだと捉え、両者の乳房が同じ乳房であるということを知るようになる。この乳房の統合の段階に入って、乳児は今まで自分が排斥してきた乳房(悪い乳房)が、「良い乳房」であるとも気づき、罪悪感を覚えるようになる。その結果として乳児は「思いやりの心」を育んでいくという。

またクラインは、「良い乳房―悪い乳房」の分裂のように、対象が別々に分裂している段階を「妄想分裂ポジション」、両面的な対象の統合の段階を「抑うつポジション」として概念化した。これは乳幼児に限らず、様々な人間関係にも当てはめられる。

例えばラインで相手とやり取りをしていて、既読がついたのに長時間返事が返ってこなかった、いわゆる「既読無視」の状態において、「何か相手を怒らせるようなことを言ってしまったんじゃないか、面倒くさいと思われたんじゃないか」と勘ぐってしまうのは「妄想分裂ポジション」であり、そのあとに「でも、間違えて既読をつけてしまってお風呂に入ってしまったんだ。普段は忙しそうだから、お風呂にはゆっくり浸かりたいんだ。」などと思うのは「抑うつポジション」である。

昨今のいじめやらSNS、ネットなどの問題、あるいは土井隆義が「友だち地獄」と表現したような少年少女の息苦しさというものの原因の一つには、この二つの状態のバランスの崩壊があるのではないか。特に「妄想分裂ポジション」において、「悪い乳房」が「悪い乳房」のまま残り、「良い乳房」と適切に出会えない、即ち他者に対して期待できず、深く勘ぐってしまいその不安を払拭できないでいるのだ。

「抑うつポジション」からの適切な情緒的対抗が行われず、分裂した悪い側面ばかりが拡大していくのである。何もこれは症状として現れるまでもなく誰もが感じていることであり、「悪い乳房」を供給し続けた母親を恨んで突っ放すこともできるが、そんな母親でも「良い乳房」であったからこそ今の自分がいると思えば、いくらか気が楽になるのではないだろうか。

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「良い乳房ー悪い乳房/jboy/おっぱい」への3件のフィードバック

  1. 確かに他者との繋がりがある種簡易化というか省略化されるなかで、社会的に「やむを得ない」を許容できなくなっている傾向を感じます。

    しっかし幼少期における不安の払拭を担当してくれるのが母親であることは、どうしても愛情の方向性と関係性を決定づけるのも母親になる所以だよなぁと思いました。

  2. まず、テーマがおっぱいなのにこういう話にもっていける発想力に驚きました。
    些細なことでも、悪いと思っていたものが実は良いものでもある、そんな考え方をしていったら少し生きるのが楽になるのかもしれないと思いました。

  3. ゼミの課題でも見てるんかと勘違いしました。精神分析では、人間の本能的な部分、つまり性的な話題が多くなりますね。心理学的には、ヘビースモーカーには乳房に対する欲求が残っている、って話も聞くし。今でこそ性的対象として見ているものも、20年前僕らにとっては貴重な食糧源だったわけだし、おっぱいは深いと思います。

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