バックラッシュ!要約/rascal

『たかが名簿、されど名簿』──学校現場から男女平等を考える── 長谷川美子

かつて小学校から高校までの出席簿は男女別名簿が当たり前だった。著者は1985年に都立高校に移った頃から「行動する女たちの会・教育分科会」の仲間たちと学校現場へのアンケートを手始めに混合名簿の実現に向けて運動を本格的に開始した。アンケートに回答した80校の九割以上が名簿での順番はボーイファーストであり、ボーイファースト名簿を使用している学校の回答者の半数以上がそれを「おかしいと思ったことはない」と回答した。そして、この運動に対する評価として5割強の人が「ささいなこと。男女平等をめざすならもっと本質的な問題に取り組むべきだ」と答えた。同年に国際女性ナイロビ会議で18カ国49名に日本の出席簿に関するアンケートによせられた感想や意見の大多数は「たいへんな差別であり、不幸なこと」というもので、男女別名簿を使うインドからの参加者は「これはわたしたちの国と同様、男権社会だからです」とコメントした。1986年に東京都高等学校教職組合に男女込の出席簿に改める運動をすすめるという修正案を提出したが、あえなく否決された。職場で反感を買うような運動はなるべく避けたいというのが反対派からありありと見えた。実際に学校別で男女混合名簿を提案すると正面切って反論する者はいなくても「ささいなこと」「健康診断や男女別平均点を出すときに不便だ」などの反論が出た。その度に行動する会は粘り強く説得し、その効果あってか少しずつ都立高校で混合名簿が実現していった。それから都議会や新聞、国会で取り上げられるようになり、現在では都立高校の85%が男女混合名簿が使用されており、定着している。この運動を続けるなかで筆者が実感したのは日常習慣と化した差別を差別としてはっきり認識することの難しさと差別を変えようとして行動したときにぶつかる壁の厚さだ。建前として男女平等の理念が否定されることはないが、ひとたび具体的な差別を解消しようとするとたちまち抵抗されるのは、長い間当然のことだった男性優先のシステム全体への異議申し立てを感じ取り、それを脅威と感じるがゆえの感情的な反発なのだ。男女混合名簿運動はまさしくオトコ社会での行動パターンを「自然に」身につけさせるシステムのひとつとして有効に機能していた。だからこそ「ささいなこと」といわれながらも実現が困難だったのだ。
そして今バックラッシュの動きの中で都教委から「男女共同参画のための混合名簿はいいが、『ジェンダーフリー』に基づいて名簿を作成することがあってはならない」という無理のある通知が出されている。これは「ジェンダー」という認知度の低い言葉に「フリー」という使われ方次第でさまざまな意味を持つ英語をくっつけた「ジェンダーフリー」という言葉があいまいさにつけ込みむちゃくちゃな言いがかりをつけて過激思想に仕立てあげ男女平等潰しにかかっているのではないだろうか。現場教員にも男女平等という言葉は強い印象があるが、ジェンダーフリーの方が反発が小さいという人がいる。時流に乗っており学者も使うジェンダーフリーという言葉は抵抗が少ないぶんだけ主張の中身が正確に伝わらない危険がある。
理論だけでは世の中は変わらない。たいせつなのは行動である。バッシング派が男女平等叩きに躍起になっても女たちの日常の意識や行動は簡単には逆戻りしない。ただし、こちらが必要以上に「ジェンダーフリー・バッシング」に揺らいだり、差別をなくす運動に費やされるべきエネルギーを「この言葉でないと…」などといった用語をめぐった論争に無駄に使うのはもったいないのではないか。

 

政権与党のバックラッシュ 荻上チキ

男女共同参画社会基本計画の検討が進められていた2005年頃、バックラッシュの動きにおいて政権与党の自民党が果たしていた重要な役割を果たしている。2005年3月、国会などでジェンダーフリーや男女共同参画に批判的な発言を繰り返していた山谷えり子が中心となって「自民党過激な性教育・ジェンダーフリー性教育調査検討プロジェクトチーム」が発足した。12月に迫っていた男女共同参画基本計画の更新を目安に女子差別撤廃条約や男女共同参画基本計画の問題点について検討するのが目的だった。このプロジェクトチームが発足してから4月から6月に「実態調査アンケート」がおこなわれた。これらをまとめて冊子「過激な性教育・ジェンダーフリー教育に関する県別事例集」が作成された。事例集の冒頭ではアンケートで約3500の実例が集まったと書かれている。これらは各所で取り上げられさまざまな場面でこの事例を持ってジェンダーフリーや性教育の「過激な実態」を喧伝した。そして2005年12月に男女共同参画局に「男女共同参画基本計画改定に当たっての要望書」を提出した。要望書の内容は「ジェンダー」という文言の削除というプロジェクトチームの狙いが主になっていた。これを受けて基本計画が変更され、ジェンダーフリーへの否定的注釈がつけられたのち2006年1月に内閣府から「今後はこの用語(ジェンダーフリー)は使用しないことが適切と考えます」という通達が各都道府県の政令指定都市男女共同参画担当課に送付された。
問題の事例があれば是正すべきだし、その際は何をもって「問題の事例」とするかの議論も丁寧におこなわれるべきだろうが、自民党の事例集には作成の手続きにおいても、その使用され方においても多くの問題が含まれている。アンケート自体が恣意的で、社会調査としては不適格であることに加え「事例集」を見るかぎり「3500件」というのはどう見てもウソであるのだ。実例としてカウント出来るのはせいぜい数百件で、それが客観的に「過激な事例」であるかは更に吟味が必要だ。それにもかかわらずプロジェクトチームは「実態」の誇張を繰り返すことで政治的な目論見を実現させたのである。
プロジェクトチームは「現場の暴走」を過剰に喧伝して現場や子どもたちを無視した議論の暴走をおこしている。男女平等には反対しないが彼らの唱える男女平等には反対だ。私たちの男女平等こそが正しいのだといって自らが基本法や基本計画を是正するために介入するパフォーマンスをしているにすぎないのだ。

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