第16話《最終決戦‼︎宿命の対決》/シラサキマイ/眉墨

 

「もうやめてケンタ!それ以上戦ったら死んじゃうよ!」

マイの叫びが深夜のグラウンドに虚しく響き、流星の走る夜空へ消えてゆく。身を切るように冷たい北風が、腰を抜かしてその場から動けないマイの皮膚を容赦なく打つ。ざり、と奥歯を噛み締めると砂の触感が脳に響いた。遅れて百メートル先から運ばれてくる錆びた鉄の匂い。ケンタのものだ。

「ダイキくんは…ダイキくんはまだ何か切り札を隠し持ってる!ケンタとは格が違う!それ以上やったら…」
「マイ!!!」

それは呼びかけというよりも咆哮だった。
喉を裂くようなケンタの咆哮が、マイの鼓膜を揺さぶる。マイは知っていた。ケンタがこうなったら、もう私には止められない。よく知っている。生まれてからずっと、誰よりもそばで彼を見て来たのだから。それでも、止めずにはいられなかった。名前を呼ばずにはいられなかった。

キスだけで相手の魂をまるごと奪ってしまう悪魔、ダイキはその能力で自身の力をより増幅させるため、新たな生贄を探しに転校してきた。今やクラスメイトの女子は皆、ダイキの思惑通りキスで全ての心を持ち去られ、昼夜成就することのない恋心を抱えて身をよじって苦しんでいる。
ダイキが転校してきたその日、マイもキスによってその心の半分を盗まれた。
なぜマイだけが『半分』だったのかーー。

「ケンタ……」

日本に初めてやってきた悪魔払いの血を継ぐケンタに、初めからマイの心が奪われていたからだった。本人の自覚があれば、気を強く持っていれば今こうしてケンタを危険に晒すことなどなかったろう。宿敵の払い師との巡り合いに積年の恨みを爆発させたダイキは、本来の力を全て解放して今にもケンタを喰い殺さんとしている。まだ払い師として未熟なケンタに、勝ち目はなかった。

「フハハハハ!!!そろそろ観念してマイをこちらに渡したらどうだ、小僧!!!見たところ貴様に勝ち目はない……今ならば四肢を奪う程度で観念してやろう」

ビキビキ、メキメキと音を立ててダイキの両足大きくなってゆく。腿には太い血管が浮き、細い血管は千切れ、急速に伸びてゆく右手の骨が突き破らないよう皮膚が引っ張られるように追いかけていく。形状としてはヒトを守っているが、ダイキの様相はもはや人ではなかった。

「バカ言え化け物。マイは俺のもんだ!生まれた時からそうだって決まってんだ!テメェなんかに渡すはずねえだろ」

「フン、面白い奴だ。自ら死を選ぶとはな……だがこれで最後だ」

目の前からダイキが消えた。しばしの間。ビュンッ。風を切る音がした。一瞬遅れて、ダイキの動きが音速を超えたのだとケンタは了承した。なるほど、たしかに次が最後の一撃だ。

「ケンタ…!」

しかし、ケンタは冷静だった。全神経を右側に集中させ、自身の右側、何もいない場所に向かって銀の杭を振り上げる。

「トドメだ悪魔!」
「ぐはあっ」

マイは目を見開いた。そこには、杭の刺さった心臓から鮮血を撒き散らすダイキが居た。

「な、なぜ俺の第三の能力を見切った…」
「フン。簡単なことさ。俺は一度、お前の瞬間移動…いや、透明になって移動する能力をこの目で見ている…ッ!」
「なんだと…!?」

そのとき、マイの脳裏にダイキが転校してきたときの記憶がよぎった。
初めまして、と挨拶したその次の間には自分の隣にいたダイキ……そうか、あのとき!

「これで終わりだ。あばよ、ダイキ…」

こうして平和は守られた。
ダイキが消滅したことによって、ダイキに心を奪われていた少女たちはダイキを忘れて日常に戻り、ケンタも、マイもまた、その時のことについては何も触れなかった。

「ねえ、一つだけ聞いてもいい?」
「なんだよ」
「あのとき、どうしてダイキが右側に行くってわかったの?」
「それは…あいつのクセなんじゃねえかなって思ったんだよ。右側に立つの」
お前の席が、俺の左側だったから、あいつは…それに続く言葉をケンタは飲み込んだ。

春の気配を忍ばせた二月の風が、2人の間を吹き抜けた。

0 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 5 (0 投票, 平均点: 0.00,  総合点:0  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。