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バックラッシュ

宮台真司
パターナリズムにはいいパターナリズムと悪いものがあり、その際を見分ける目を持つためには今の世の中は悪くない、という結論に至るために色々な事象の話がされた。バックラッシュというのは別に特段不思議なものではないけれど、社会的な弱者(知識のない一般人)に対して過度な不安をあおるものであるとしている。p10の「しかし、不安こそは、すべてのバックラッシュ現象の背後にあるものです?『流動性不安』、すなわち過剰流動性による不安です。過剰流動性ゆえに、自明性への疑いが出てきて、アノミーすなわち『前提不在による混乱』におちいるわけです。」最近の世の中は常に何かが動いている状態で、安定した状態というのが非常に少ない。そうなると、どこかに綻びが生じた時とても弱くなる。これはジェンダー問題だけにとどまらず、日本のあらゆる側面でバックラッシュか起きている。しかし、それについて悲観的になりすぎる必要はなく、あくまでもその現象に対して免疫をきちんと作っておくことが大切。という方向性で論が進められている。これが前半。中盤ではネオリベ・ネオコンと言った言葉が多用され、昔の自由主義と今の新自由主義、そして都市型の自由主義が比べられている。都市型リベラルは都市型保守よりも力がないと言われるのはなぜか、という問いに対しては(p27)都市型保守の方がエントロピー(乱雑さ)が高いからとしている。そうなると、現代の流動性の強い時代においては、都市型保守の方が優勢になってしまうから、リベラルを強くしたい場合においては、流動を止めるか(これは難しい)エントロピーを下げるしかないのである。しかし、どうして都市型保守がここまで台頭してきたのかについても言及している。それは、戦後の時代からの「理想の」家族の形や、「好ましい」子供の姿というような、パターナリズムに支配された社会構造のせいである。p31にこのような記述がある。
「理想の親子」モデルを利用したパターナリズムは、大正期に新中間層が登場することで、家族システムにおける「母性愛」と教育システムにおける「教育愛」の表象として分化し、「理想の親子」モデル(に依拠する公的な天皇臣民関係)から相対的に自立します。昭和初期の日本主義(国粋主義)的教育論では、教育愛が国家愛へと引き寄せられて文化退行しますが、教育愛は、母性愛とと同様に、国家権力への抵抗拠点として伏流し続けます。
つまり、本来は臣民の関わりのために作られた理想の親子というものが、いつしか全く別のものとして(むしろ対抗するものとして)生まれてしまったという皮肉な結果になったことになる。そしてここで愛という概念が出てくる。現代日本が生んだ「パターナルな愛」とルーマンが規定する「情熱としての愛」とはどのように違うのだろうか。前者は相手の幸せイコール相手の喜びには直結しない。本人の意思によらず、社会的に幸せであればそれは幸せなはずたどいうことで処理されてしまうのだ。後者であれば、相手が喜ぶことであれば本来ならあり得ないことさえも行ってしまう、といういう形をとる。ジェンダー的に例えを出すなら、社会的にみた女性の幸せが結婚そして出産だとしても、その女性が心から同棲を愛していた場合、女性同士で幸せに過ごしていくことを優先することが、ルーマンの定義する愛である。それが真の幸せか問われてしまうのが、パターナルな愛であろう。パターナル的思考の怖いところは、不安のポピュリズムが増殖してしまうところだ。不安のポピュリズムというのは、宮台氏の論のキモでもある。過剰流動性の強い現代において、幸せを求めるよりも不幸への恐怖が強くなりすぎることによって、生きる上で不幸が先行した考え方になってしまうことだ。そうなってしまえば、パターナリズムの押し付けにどうしても対抗できず、価値観の押し付けが無限に生じてしまう。それでは、今の世の中で多くの人が幸せになるにはどうしたらいいのか。それが「各人各様の幸せ追求が肯定される」(p34)ということなのですが、これは非常に難しい。この考え方でさえも、伝え方を間違えて仕舞えばあっという間にパターナリズム批判に淘汰されてしまう。その例が、p35-37に挙げられている。何を訴えても極端な例をもって批判されてしまえば、そこに打つ手は無くなってしまう。パターナリズム批判をする人間は、多様性への過剰な嫌悪があるから、多様性を謳って幸せになるのはごく一部の人間だと思い込んでしまうから、どうしても多様性というものを容赦なく叩こうとしてしまうわけだ。多くの人がもっと幸せになるには、価値観から変えていく必要がある。しかし、それにはどうしてもお金も時間もかかってしまう。そうなった時に、現代の政治家などのお偉いさんはむかしの考え方に侵されてしまっているせいで、そのための動き方も正しさもわからなくなってしまっているのである。現代において、求められているのは「祭のプロ」(p75)のような人だ。楽しさと社会性を両立し、キチンと合致させることで人々を正しい思想で巻き込むことができる人材が、現代の不安のポピュリズム解消には必要不可欠なのである。ただ、一時的なネタによる祭り(炎上的な)では何にもならない。今ある無数の境界の間を縫って、境界を新たに作る、その境界はさらに新しいバックラッシュを生みうるかもしれないが、そこをどんな風にカバーしていくか…ということも考えていく必要があるのだ。
つまるところ、多様性が溢れている現代社会において、バックラッシュは常にあらゆる問題ついて起きている。そして、今まで否定しきたパターナリズムも、社会的観点においては必ずしも不必要とは言い切れない。むしろ、多様性を重んじることや、パターナリズムについて過剰に反応してしまうことこそが、社会的免疫の欠落とも言えてしまう。(p82)自分の中や他人の境界線や価値観をある程度の余裕を持って捉えていく、ということがこの過剰な流動性をもつ現代においては必要なのだろう。

瀬口典子
科学と性差は関係があるのか。ということについての論が展開されている。一昔前は、女性が研究職なんていうのは非常にマイノリティであった。そのせいかわからないが、フェミニストを否定する人々の中には研究職で、脳の性分化、脳の認知機能の性差などを例に挙げて「男らしさ・女らしさ」は生まれつきのものだと反論している。(p310)そして、ジェンダーとセックスという似て非なるものを同列に扱い、ジェンダーフリーという言葉の流れに乗じて、「女らしさ・男らしさ」がフェミニストによって消されかけている、などということを主張しているのである。男らしさと女らしさは生まれつき決まっている、保守派としてよく取り上げられる学者に澤口俊之という脳科学者がいるが、彼は「男と女の脳は生まれながらにして違う」という主張をしながらも、教育の受け方によって脳の作りは変わってしまうという矛盾した発言をしている。これはつまり、生後に脳は社会・文化的に影響を受けて構築される性のあり方、ジェンダーが存在するといっていることになってしまう。(p312)また、セロトニンという科学物質を使って母性本能について説明しようとしているが、これは男性にも見られる分泌物であるがゆえに、母性本能と本当に関係あるのかは甚だ疑問である。(p312)
よく言われる男女の脳の違いとして、「話を聞かない男と地図が読めない女」というのが代表的な例えとしてあげられることが多い。しかし、これについても、そもそも昔からの人類進化史な積み重ねの末にできた論であり、その論を作ったのが男性が多いせいでバイアスがかかってしまっている、というのが現代の主流である。よって、確かにこれらの例は有名であるけれど、なに1つ有力な証拠のないまま浸透してしまっただけの話に過ぎないのである。この話からもわかるように、人類進化史というのは実はバイアスだらけで、男らしいとか女らしいとか狩猟時代からの話を現代にまで無理やりこじつけている。男が狩りをして女が家にいた大昔と、男女が等しく働いている現代をどうして同じ尺度で語ることができようか。
瀬口の主張では、科学を用いる保守派があえて見ないようにしてきた事実や、政治的な自由のために真理を曲げて「疑似科学」を振りかざしてきたことについて言及してきた。そしてこれらに騙されてしまっている人が多いとも。正しい判断をするためには、オリジナルの論文を読むことが何よりも有効である。現在、昔に比べるとかなりの女性の脳科学者や研究者が増え、今までの脳の性差などという主張に疑問を投げかける動きも増えてきた。そのような中で今までのジェンダーの固定観念をいかに自分なりに崩し、自分の頭で考え判断することが求められている。(p334)

要約を終えて
ジェンダーというのは昔からありながらも深く触れられてこなかった(触れられてきたのかもしれないが掘り下げられてはいなかった)分野だけに主張や見方がたくさんあって興味深かったです。セックスとジェンダーは切り離せないものではあるけれど、どちらにも多様性が認められつつあるいま、それらに対して明確な論を唱えるのは難しいのかな、とも思いました。宮台さんの主張にもあったように、多様性という言葉をどのように扱っていくかがこれからの文化のあり方に大きく影響していくのではないかなと思います。

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