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あなたの遺書をください。/遺書/三水

遺書、とは。
最後に遺す言葉、モノ、人、
つまりは人生において最も気にかけたもの、
大切に思っているもの、
執着、未練、
そういったものごとを考えさせる装置なのだろうなと、思っていた。思っている。

いざフタを開けてみれば、まぁほどほどに荒れている。
大方の予想通りの、鬱々とした美しいものもあれば、どきりとするほど鋭い言葉で、胸が痛むようなのもある。一つを読むのが、なかなかつらい。

とはいえ、やはり遺書は遺書。思っていたものと、さほど相違ないようである。
親とか人との関わりとか、過ごした日々への思いとか、大事な本とか、
向ける感情がプラスでもマイナスでも、結局気にかけていることはかわらないわけで。
いつもながら愛にあふれた人たちだなぁと思う。なんやらの反対は無関心説をとるならば。

自分が死に至るストーリーに沿って、
紙に書いた大切なもの、人を、
一枚、一枚、捨てていく。
そういうワークショップがある。主にホスピスなど、『臨終』に接する人々の間で行われているものだ。

最後に残るものは何か。
最後まで手放したくないものは何か。

結果は家族、恋人、金、宗教、本、自然、
当たり前だが、千差万別、十人十色。

その一端でも覗けたら、楽しいなぁと思っている。

死や、何かの終わりに遺された言葉は、
(例えどれだけ自己満足でも独りよがりでも)
遺した者のためにあるわけではなく、
遺された者の意味になり価値になり、糧になる。

日本も墓石には名前なんかじゃなく、遺書彫ってくんないかな。

逆光源氏計画/ぜんぶ雪のせいだ。/三水

ゆきやこんこ あられやこんこ

一月の浜辺には、犬ではなくユウタくんが駆けまわっている。

「子どもは若いなぁ」

至極当たり前のことをぼやきながら、高野さんは焚き火に木を足した。
手渡されたままに揺する鍋から、時折何かが爆ぜる、乾いた音がする。

「コレなんですか」
「珈琲の豆です、そら、もう香りがたつ頃でしょう」

言われてみれば、どこか甘い、焦げたようなにおいがする。
いま少しと顔を出せば、煙と雹と、真っ向から浜風がぶつかってきた。

「いやあ、それにしてもこれはいいネタになりますわ、伝説ですよ伝説」

大雪の浜辺で焚き火。
そりゃ後から聞けばそうだろうが、今のいま、頬が凍ってぴくりとも動かない。
ヒュウヒュウと風のなく中、走り回る子どもの足音が低く韻をとる。
木と豆の弾ける音、空高く降るとんびの鳴き声が調子を合わせた。

高野さんは鍋を取り上げながら、ユウタくんに向かって声を張り上げる。
見ればすっかり磯の方で、うずくまる様はマッチ棒ほどの大きさに見えた。

ふと振り返ると、周回ごとに届けられた貝殻が列を成していた。
端の、新しいものほど大きく、そして…… 湿っている。
段々躊躇しなくなってきたらしい。

ミルに納まってかえってきた豆を挽きながら、若くない私は火に向き直った。


一人分のりんごジュースが温まって来た頃、背中に何かが乗っかった。悪い魔女よろしく焚き火に突っ込みそうになるのを、かろうじてこらえる。

「手!」

無邪気に突きだされた手を手袋ごと握る。と、指の間からじわりとにじみ出る、さぞ塩辛いだろう、水。
あーあーあー。
言葉にならない嘆息と共にひっぺがして、握ったもみじに思いの外強い力で引っ張られた。浜辺でたたらを踏み、膝の毛布が落ちて、砂まみれ。おまけに踏んづけてまたよろける。

「後ろ!」

そんな私にはお構いなく、言うが早いか、背中にずんと重みがかかる。
砂浜を足指でつかむように、なんとか抱えて立ち上がれば、彼は高々とちっちゃな拳をかかげた。

「海!」

どこまでと問えば、ずっととのお答え。
私だけ濡れるのではと問えば、うふふとお返事。

悔しくてぐるぐる回ってやると、雪を飲んだと大騒ぎする。
いっそ楽しくなってきて、波打ち際まで走ってみせた。

子どもは風の子、七つは神の子。
一年廻ってまた来年。
この背に乗ってくれるなら、海の底までお供しようか。

「青田買いにもほどがあるぞ、おまえ」

ずっといた父がそういって、また薪をくべた。

【実験】クソ真面目野郎からツッコミを奪ってみた【ツッコミレス】【続かない】/共同制作/三水&露子

―ツッコミレス―
「あたかも当たり前かのようにありえないことを言い合い、ノリツッコミではなくノリっぱなしでどこまで耐えられるかを競うゲーム。お互いに最後までノリきったら引き分けとなる。」
(http://asobikatan.jp/user/want_the_moon/164.htm)

[LINE] 露子とのトーク履歴
保存日時:2017/01/11 01:09

2017/01/11(水)
24:02 [露子]  はい!
24:02 [露子]  やりましょう!
24:02 [三水]  はい!
24:02 [露子]  どうしよう!
24:02 [三水]  それな!
24:02 [三水]  てきとーにお話しして!
24:02 [露子]  うおお…むちゃぶり
24:03 [露子]  了解です!
24:03 [三水]  むちゃぶるよ!
24:03 [三水]  ※酒は飲んでない
24:04 [露子]  飲めば良かった
24:04 [露子]  この前初めて酔っ払ったんですよ
24:04 [露子]  精神レベルで
24:04 [三水]  え、彼岸見える系?
24:05 [露子]  起きたら布団のシーツの顔の横の部分が血まみれだったんですよね
24:06 [露子]  鼻血出た形跡もないしあれは謎でした
24:06 [三水]  なにそれこわい。赤?黒?
24:06 [露子]  黒ですね
24:07 [露子]  あとBUMPのライブ映像見ながらひたすら泣いてました
24:07 [三水]  うあー。なんか、内蔵系はあかくて、気管系はくろくてとか
24:07 [三水]  どっちがどっちか忘れたけど
24:07 [露子]  うええ
24:07 [露子]  体の内部から出てる血だったらこわい
24:07 [三水]  ばんぷ派だったね
24:08 [露子]  そーです!
24:08 [露子]  藤原基央ゎ神。。。
24:08 [三水]  らっどはおばさんあんまり聞かなかったから、ばんぷのが馴染みあるなぁ
24:08 [三水]  物語系の走りな気がしてる
24:08 [露子]  あーーー
24:09 [露子]  ボカロとかは絶対BUMPの影響
24:09 [三水]  おばさんの心の友
24:09 [三水]  やっぱそうかぁ
24:09 [露子]  ダンデライオンのMADとかなつかしい
24:09 [三水]  めっちゃ動画巡りしてた
24:10 [三水]  なつかしい!
24:10 [露子]  パコパコ動画には私たちの世代はみんなお世話になってますよね
24:12 [三水]  そして卒業…… はしてないか。TwitterやFBに動画実装されたから、皆そっち流れてんのかな?
24:12 [三水]  Twitterとかがそもそも実装されてない時代…… ?
24:12 [三水]  やだこわい
24:14 [露子]  すみませんボケたつもりでした
24:14 [露子]  おもしろいなこれ頭使う
24:14 [三水]  ごめんなさい普通に会話してる。
24:15 [三水]  何言われてもうんうんってなるごめん
24:15 [露子]  優しい
24:15 [三水]  でしょう
24:16 [三水]  すみませんでした
24:16 [三水]  ちょーしのりました
24:16 [露子]  謝っちゃうwwww
24:16 [露子]  ツッコミレスですよ!!
24:16 [三水]  それ!
24:16 [三水]  あやまらないぞーーーー
24:16 [露子]  自分でつっこんじゃったらしょうがないんですよ!!
24:16 [三水]  ルールww
24:16 [露子]  私もだけど!
24:17 [三水]  これできるのかww
24:17 [三水]  待って待って戻るボタン押そう
24:17 [三水]  使えそうなネタに戻るとか分岐とか
24:17 [三水]  波乱の予感ーーーー☆
24:18 [露子]  うぇ!?どういうことですか?
24:20 [三水]  戻る=面白そうなとこからやり直し
24:20 [露子]  了解です!
24:20 [露子]  どこにします?
24:20 [三水]  どこにしよう←
24:21 [三水]  わりと枕の血のくだり現実がわからなくなった
24:21 [三水]  から、入りやすそうではある
24:21 [露子]  あれは現実です
24:21 [露子]  了解ですぞ!
24:21 [露子]  よーし、どんときてください!
24:24 [三水]  まってプレッシャー
24:24 [露子]  wwwww
24:24 [三水]  これ頭と心つかうな
24:24 [露子]  なんかまあ楽しみましょう…
24:25 [露子]  じゃ、今からツッコミレスで
24:25 [三水]  ごめんねほんとごめんね
24:25 [三水]  とりあえずなんかがんばろう


【24:05 [露子]  起きたら布団のシーツの顔の横の部分が血まみれだったんですよね】
【24:06 [露子]  鼻血出た形跡もないしあれは謎でした】
24:26 [三水]  今年?ってかこの冬妖精さん流行ってるらしいよ。
24:26 [三水]  私も知らん間に血出てたし
24:28 [露子]      そっか、じゃあこの液体は妖精さんの体液だったんですね
24:29 [三水]  かも。ちゃんとリセッシュした方がよいよ。
24:31 [露子]  リセッシュってあれですよね、松岡修造の体臭を消してくれるやつ
24:32 [三水]  そうそれ。夏に手放せないあれ。
24:33 [三水]  修造が海外行くじゃん?
24:33 [露子]  はい
24:33 [三水]  だから今向こうで売れてるんだって。
24:34 [三水]  なんか、ホテルとか中心に
24:35 [三水]  徐霊できるし
24:36 [露子]   海外ってどこですか?
24:37 [露子]   海←この字ってどうよむんですか?なにこれ
24:38 [露子]   さんずいってことはポケモンでいうとほのおタイプですよね??
24:38 [三水]  ごめん常用外だったか
24:38 [露子]   はい、なんかわかんないです…
24:40 [三水]  阿蘇山ライン開通されたじゃん?
24:40 [露子]   我不能読漢字
24:42 [露子]   阿蘇山って日本の最南端でしたっけ
24:42 [露子]   あれ?最南端は台湾だっけ
24:43 [三水]  旧国土線的には最南端
24:44 [三水]  あのマグマん中突っ切った先が「海外」。
24:45 [三水]  読みは「      」
24:49 [露子]   あ、そっか、ラピュタと領地問題でもめてましたよねあの頃は
24:50 [露子]   かぎかっこって読むんですねわかりました
24:53 [三水]  あったねぇ……宮崎総理頑張ってたよね。
24:54 [三水]  そうそれ
24:55 [三水]  …… なんの話だっけ。ごめんよ変なとこで止めちゃって
24:59 [露子]   すみません順序とかあとで調節すれば良いかなあと思ってしまいました
24:59 [三水]  それな
24:59 [露子]   とりあえず
24:59 [露子]   かぎかっこって読むんですねわかりました
24:59 [露子]   は
1:00 [露子]  読みは「      」
1:00 [露子]   のレスポンスなのでそこから再開していただければ
1:01 [三水]  あ
1:01 [露子]   はい
【24:55 三水  …… なんの話だっけ。ごめんよ変なとこで止めちゃって】
1:01 [三水]  わりとここまで一繋ぎのつもりだった
1:02 [露子]   ツッコミレス継続なう!?
1:02 [露子]   負けた
1:02 [三水]  ww
1:03 [露子]   ちょっと私たち真面目すぎるようです
1:03 [三水]  しまった

好き嫌い相対論/自分大好き/三水

母校から手紙が届いた。
よそよそしいお仕着せ封筒に、判で捺された恩師の名前。

封書のくせにやけに薄っぺらいそれを手に、なつかしさより戸惑いが勝つ。心当たりはまったくなかった。

眺めていても、流れ作業を思わせるインクの滲みが気になるだけである。宛名と住所だけは手書きだが、なんだかそれもえらく角張っていて、お世辞にもきれいとは言いがたい。不揃いな四角が並ぶその手跡……

ああこれ、自分の字だ。

それでわかった。
これは所謂、『未来の自分へ』ってやつだ、と。

「四年後の自分に。
今あなたは高校三年生、四ヶ月後の旅立ちに備えています。
…… 今何をしていますか?忘れてしまったかもしれないあなた自身からの手紙です。落ち込んでいたらこれからの勇気のために。希望に輝いていたら足元を見つめなおすために。この手紙を役立ててください。」

出だしは皆同じ。素っ気なく印字された定型文でも、時を挟めばまた、恩師の声に聞こえて懐かしい。
当時ちょっと疎ましくも、歯がゆくも思っていた人だが、今振り返ればよき教師、よき人間だったと思える。
時は偉大である。まぁ、思うところもあるけれど。

さて、ここからが『私』の文だ。
ちと恥ずかしいが原文ママでお送りする。過去を慈しむ広い心でお付き合い願いたい。
…… 関係ないけど、あいっかわらず汚ねえ字だなおい。

何はともあれ十八の私、一行目にはこうあった。

「何がしたいか決まっていますか?
決まってないかもしれません。今は全く想像がつきません。
早く知りたいです。でも決まらなくても私らしいかも。」

はい初手から右ストレートかましてきました。おまえ、いくら自分相手だからってちっとは遠慮しようよ。物事には順序ってものがあるよ?
…… ごめんなさい決まってないですお察しの通りさすが私。

でも、とりあえず手に入れたいものは見つかりました。それ目指して頑張っているつもりです。
多分、進歩だと思います。はい。

次いで一行挟んで、
「大切な人を大切にできるようになっていますか?
なっているといいけど、なってないならとりあえず今すぐ連絡しなさい。
四年前の私にできないような、レベルの高い気遣いをしてください。
今の段階ですでに返済しきれないくらいの、たくさんのいい子にたくさんのいい思いをもらっています。名前は書きません。覚えてないなら人としてそれまでてすから。」

待っていろいろつっこみたいけど、とりあえずなんでそんなにケンカ腰なの?主旨わかってる?思春期?反抗期?
そうなんだろうなあ、トガってるなあ十八の私。
あとレベルの高い気遣いってなに?返済?ん?日本語がんばろうな、あと字。

…… うん、まぁ云いたいことはなんとなくわかった。ひとまずめぼしい人にLINEするね。

四年前にはこんな手軽に人とやり取りできるなんて、夢にも思ってなかっただろう。
それから、『大切な人』が側にいることが、どんなに貴重で、素晴らしいことかも。
連絡すれば、いつでも会える。
側にいなくても、手の届く範囲にいる。
本当にそうかな?考えたことある?
…… なかっただろうなぁ、私だってそれに気がついたのはほんの一年前のことだった。

だけど、だからこそ、大切な人を大切にしたいって意気込みは、わるくないと思うよ。私にしては、上出来かと。

それからまた一行あけて
「少しでもましな自分になれていたらと思います。」

『ましな』自分ねぇ。はい。

そして最後に
「今の私は大嫌いです。よろしく。」

わざわざ付け加えるようにして、いくらか余白を残して手紙は終わっていた。

若いなぁ、とても若い。いっそ幼い。
拙いし青いし汚い。
よろしくって、なんでもかんでも未来におっつければいいってもんじゃないよ。なんでいつも現状に諦めちゃうかな。だからって未来に期待してるわけでもないじゃん。
いやまぁ、そういうとこは今も変わってないか。
だいたい四年経とうが十年経とうがそう簡単に人が変わるわけがないだろうに。若いなぁ、自分。

でも四年前のあなた、私は結構好きだけどね。

紅一点/あったかい/三水

何か一点を注視する趣味がある。

この一点、というのはそのままで、漠然とした一つじゃない、ある一つ一つの点のこと。
線香花火の先とか、充電中のランプとか、隣のあの子の耳に光る、真っ赤なファースト・ピアスとか。

こうなると趣味というより癖というよりみたいなもので、特に実になるようなことにはならないのだけど、気がつくと、というか気を抜くと、じーっと遊んでしまっている。
その間、外部のことは文字通り『眼中にない』ので、後で結構困ったりもする。

で、最近ハマっているのは「お香」である。

このお香というのもいろいろあるのだけれど、私の愛用はもっぱらスティックタイプ、要するにお線香である。
火と、燃えない受け皿(灰皿でも可)と、穴の空いたなにか(箱で買えば大抵は香立ても付いている)、この三つがあればいつでも焚ける、手頃なお遊び、それがお香だ。

夜、一日使い倒したスマホが充電きれにぴーぴー鳴き出した頃。

季節色とりどりの収集から一本取り出し、気に入りの香立てに挿しかける。

マッチを擦って(未だにちょっとどきどきする)、気忙しく火をうつして、また消して。

明かりを落とせば、暗闇の中にぼうっと一点、小さな火。

布団の中でぬくぬくと、何を思うでもなく、強いておつむを空にするでもなく、
じりじりと、目に追えぬほどじりじりと下降していくその一点、
ただ一点を、じっと見つめる。
この無為な時間の、なんと贅沢なことか。

この冬の趣味、一つ加えてみませんか?

天下の甘酒/食レポ/三水

ない頭絞って長い前置きを挟むよりも、端的に目の前の天啓を置こう。

バス停の微かな光にぼんやりと浮かぶ、真っ赤なカンカン。
何故ここにあるかはわからない。
夜更けの公園に誰がこんなディスプレイを、等と考えても仕方ない。というかしょうもない。
ただそこで出会ってしまった、だから天啓なのだ。

箱根の山は天下の険。

国道1号線のバイパスとして箱根新道が整備され、2011年に無料化してから、とり残された旧街道は僕らの遊び場になった。
ローディ、ツーリスト、自転車乗り、チャリダー。
呼び名は数多あれど、本質は一つ。山を好み、坂を愛し、誰よりも速く何よりも尊く頂上を欲する者たち。
ここでは敬意を表して坂バカ、おっと、クライマーと呼ぼう。

箱根に集うクライマーたちにはお決まりのコースがある。
小田急線箱根湯本駅辺りから旧街道を辿り、芦ノ湖畔の港町元箱根まで抜ける、約10kmの行程。標高差700km、平均勾配6.6%、といってもわかりづらいだろう。体感でいえば、緩い坂をベースに三ツ沢のキャベツ畑が(和田側の人はあの一番きつい階段をちょい緩めたくらいの坂が)500mごとに来るようなかんじ。ホントに体感なのだけど。
とにかく伝えたいのは、
きつくて、
しんどくて、
苦しいということだ。

ならば何故登るのか。
昔の人はいった。
「そこに山があるからだ」

クライマーたちはいった。
「そこに坂があるからだ」

しかし私は違う。
「そこに甘酒があるからだ」
そこに甘酒あるから、私は登る。

箱根湯本駅から距離にして8kmあまり、標高691km地点に、その茶屋はある。

その名もそのまま「甘酒茶屋」。
江戸初期から東海道の旅人を迎え入れてきた、歴史ある憩い場である。

甘酒茶屋で甘酒を飲む。至極まっとうな目的を果たし、私は他のクライマーたちを横目にさっさと折り返す。道半ばも半ば、全行程の4/5である。でも折り返す。
そう、私の頂上はあくまで『甘酒』。ただそれだけのために、私は山を登る。
夏は汗みずくになりながら、冬は指先を凍らせ、それでも登る。
ただ甘酒のために。

それじゃ端から車で行けばいいじゃないかと。仰る通り。
箱根湯本駅からは一時間に二本ほど、登山バスが出ている。『箱根旧街道・1号線きっぷ』なんてものもある。

しかし想像してみてほしい。

草茂り空青き真夏の山道で出会う、きゅうと冷えた甘味を。

木々色づき風寒き初冬の峠に、ほのかにくゆる甘味を。

どちらも己の脚で進んだからこそ、得られる情動である。
遥か彼方江戸を想う、日本人のDNAに刻み込まれた旅情なのだ。

甘酒の甘み、それは米と麹のまろやかな甘み。
甘酒の温もり、涼、それは峠の人心地。

心臓破りの稲荷坂、箱根名物七曲り、もう一息の猿すべり。
延々と独りで登ってきた己を、温かく心地好く迎え入れてくれる者がいること、
それが甘酒の、甘酒茶屋の真髄なのである。

どうか一駅でも手前で降りて、箱根の山を感じてほしい。
そこで出会う温もりは、きっとあなたの身も心も癒すだろう。

箱根の山は天下の険。
天下の険に甘酒あり。

甘酒茶屋
〒250-0314 神奈川県足柄下郡箱根町畑宿二子山395−1
(https://g.co/kgs/E0TZ19)

公式サイト
http://www.amasake-chaya.jp/

百聞ハ一見二如ズ/夢の対決/三水

親愛なる読者諸君。貴君らは幽霊を信じるだらうか。

二十一世紀の世の中で、藪から棒に何をバカなと嗤われるやもしれぬ。だが私は、至って正気で問うているのである。決して狂うたのではないことはこの論を読了すれば自ずと判るはずであるので、しばしお付き合い頂きたい。

さて、幽霊は実在か非実在か。明朗明快な科学の徒たる現代人ならば、当然のごとく否と応えるであろう。
しかしてその回答は、いったい如何ほどの推算から成るものか。試しに幾らか取り上げてみる。

曰く、幽霊は作り物である。
その証しに、やれ足がないだのいや顔が青いだの血塗れだのと嘯くわりに、実際見聞きする形状も報告も定まらぬ。曖昧模糊としたイメエヂのお化けである。

なるほど、よくある両手をだらりと下げ三角布を被り、「うらめしや」等と夜道で人をおどろかす類いの幽霊は、これ皆歌舞伎や浮世絵、落語だのから人口に膾炙した典型であって、唯一ではない。実在の事物ならば是という一つがあるはずであろう。

曰く、幽霊とは人の恐怖心がみせる幻である。
気の弱い人や女子供が夜道を歩いて、或いは誰も居らぬはずの家屋に独りでいる時に、ふと揺れた草木の蔭や地鳴りが起こす戸の軋みの、恐怖心に曇った眼で幽霊を見るのである。家鳴り等という妖怪変化もまた此の類いである。

確かに幽霊をみるのは独りの時が多いやうで、複数人で同じ姿を見るというのもなかなか聞かぬ話ではある。また一所同時刻に日を跨ぎ同じ幽霊が見られることもあるが、その場合も目撃者は単身であることが多いやうだ。死してなお恥を知る幽霊等というオツなものでない限り、これは不可解なことである。
或いはかうした家や人には、身近に不幸があるのが通例である。亡くなった者の気配を、人乞う心が感じても不思議はない。

曰く、幽霊には実体がないはずである。しかして余人の目にかくと映るのは、果たして如何なる光源にてや。また幽霊が怨みを囁くならば、彼の者には空気を震わす声帯が、幽霊が動き、あまつさえ祟る等 人物に働きかけるならば、その運動エネルギイが必要なはずである。幽霊はそれらを何処で調達し、賄っているのか。

これは如何にも科学者らしい疑問であり、浅学な私においては反する言葉もない。
実体がなければ光を反射するべくもなく、幽霊自体が発光しているにしても、我々の身体には元々、蛍の如き発光体というものがない。一縷の望みとしては人魂と云われるようにその霊魂自身が光を放つという説だが、それでは出現に運動に発光にと、生前以上のエネルギイが必要になってしまう。余りに浮き世離れしていると言わざるを得ない。仮にさうであったとしても、日々の調達のために幽霊がメシを食った等という話は聞かぬし、何より実体のない身の何処にそんな法外なエネルギイを貯蓄しておくのか。
では身体に代わる実体があるのだというと、今度はそれを死後如何にして構成したのか、また昼に消失し(あるいは不可視化し)日が暮れると再構築される実体とはなんぞやということになる。何より、幽霊の徴とされる物質的干渉を受けぬという法則に矛盾する。

さて、上に挙げた諸々は数多の反駁のほんの一部である。幾らかの補足や考察、あるいは蛇足を加えたが、概ね世間で云われている事と相違ないと思はれる。
私はこれらの一部分、あるいは世を席巻する幽霊不在論の僅か一片に対しても、反論する言葉を持たない。

相反する言葉、相反するイデオロギイ、主義、信仰…… これらを力任せにぶつけ合い、互いにどちらかが消滅し、あるいは降伏の、死せる魚の如き白い腹を見するまで闘うことは、不合理であり、非効率的である。
それこそ文明の民、光の子たる現代人の為すこととは思はれない。

「あらゆる非存在は、唯一つの実在に拠って否定される」

曰く、貴方は私を見るだろう。他の何者でもない私の姿を。

曰く、貴方は私に恐怖していない。また私を乞うでもない。貴方は私を知らず、私に害されるべくもない故に。

曰く、私には実体がある。少なくとも今のところは。
だが役に立たぬ声帯を捨て、事物の軛なる身体を手放し霊魂のみ野辺をさ迷うたとしても、

此の身が焼け消え、
此の世の何処にも無くなって後、
屹度 その目に、
私を映して御覧にいれやう。
その貴方の明るい、叡知に溢れた瞳に。

私は狂うて等いない。私は正気である。
此れは唯一つの、証明なのだ。

ぼくの○○大作戦/大作戦/三水

 
 ランドセルよりすこし大きいかな、くらいのリュックサックに、思いつくだけの荷物をつめた。
シャツに、下着に、替えのくつ下。そのうち寒くなるから、お気にいりのパーカーも。
歯ブラシ、タオル、ポケットティッシュ三つ。
それからありったけのお年玉と、台所にあったパンと、チョコレート。
水筒はいいや、重いし。のどがかわいたら、公園でそのまま飲めばいい。
日本の水は飲めるお水よと、母さんが言っていた。

そう、母さんが言ったのだ。
「そんなに嫌なら出ていきなさい!」
その声がぶつかってきた瞬間、なみだも頭もまっ白になって、なにがいやだったのかも忘れちゃったけど。

とにかく、出ていけと言われたからには、出ていかなくちゃならない。

ずっしりと重くなったリュックサックを背負って、家を出たのはまだお昼前だった。
行くアテならあった。アテってなにかよく知らないけど、なんとなくこういうときに使うんだと知っていた。

長い坂を登って、てっぺんにはブロックみたいな建物がいくつもならんでいる。
友達の何人かはこのどっかの中に暮らしているはずだけど、どこ?って聞かれるとわからない。ここを通るときはいつも下をむいて、ちょっと小走りになっていくから。
なぜかって、、、ほうきを持って、エプロンをつけて、気がつくとこっちをじいっと見つめてくる人たちがいるからだ。
べつに入っちゃいけないとも、入るなと言われたこともないんだけど、やっぱりなんか、早足になる。
そういえば、しゅふってほんとにエプロン付けてるんだな。

坂をこえて、いくつものブロックの間を通りすぎると、今度は下り道に出る。
ただの下りじゃなくて、長いながい階段だ。一番上から見ると、ずっと遠くの足もとに一番下の地面が見えるくらいの、急な階段。
山を切りひらいたみたいな、平らなところなんてほんの20センチくらいずつしかない、小さな階段。
手すりをしっかりつかんで、下を見ないで、でも見ないとこわいからつま先のほんの先だけ見て、ゆっくり、半分くらい降りる。

そうしたら手すりを乗りこえて、赤土のみえている山そのものに足をつける。すべらないように気をつけて、斜面をまっすぐに横ぎって行く。奥へ奥へ。

そうして横手にぽっかり空いた、コンクリートの箱を横にくりぬいたみたいな場所が、ぼくらのひみつ基地。

山の途中にある家(ブロックじゃない、普通のお家だ)の真下にあって、急な斜面から家の人を守ってる。床が斜めなのは、やっぱりこまるから。
…… と、いうのは、タカシくんに聞いた話だ。もともとこの場所を見つけたのもタカシくんで、ぼくが仲間として呼ばれたときにはもう、古い毛布やらマンガ本やら、なんだかわからないビニールのおもちゃやらがそこらじゅうに落っこちてた。
ぼくが最初にやったのは、なるべく雨水でへたってないダンボールを裏っ返して、床に落ちてるのを片っ端から積んでいくことだった。

そのダンボールの上のものをなるべく平らにならして、ていねいにリュックサックを置く。両手をはなして、落っこちないのを確認。よし。

むき出しの地面が目だつけど、やっぱり少しは木もあって、下の目からちょうどこの場所を隠してくれている。
ここなら大丈夫。公園も、コンビニも近いし、毛布もある。友達もいるし、学校も近い。

木の葉のすき間からはきらきらした日がさしていて、今日もきっと、まだまだ暖かくなるだろう。
今日はだれも来ないのかな。

そう思うと急に、どこかふわふわしていた気持ちがしぼんで、つまらなくなった。
ので、友達をむかえに行くことにする。
ここは学童も近いのだ。

ついでにおやつを持ってかえって、今日の夕ごはんにしよう。セツヤクだ。

……今日はおやすみの日だった。友達はみんな家にいて、家族といるのだろう。
でも先生はいたので、おやつをねだる。
がらんとした教室に掃除機をかけたり、雑巾であちこちをふいてまわる先生に、ぼくのこれからの生き方をちょっとだけ教えてあげる。おせんべいを半分だけかじりながら。
日が、どんどん暮れていく。

先生におこられてしまった。
いつものがっとどなるおこり方じゃないけど、しずかな、言い聞かせるようなおこり方だ。何度も何度も。
それどころか家に電話までかけさせられて、
ぼくはおそるおそる、どこにつながってるかもわからないコードの先にむかって母さんと呼んだ。
電話ごしに母さんの声を聞くのは始めてだ。
ひどく遠く聞こえて、しかも敬語だった。こわい。

十五分で迎えが来て、母さんが先生に何度も頭を下げて、先生がぼくをなでて、ぼくの肩を母さんが抱えて、ぼくは家に帰った。

帰る前にリュックサックを取りに行かなきゃと言ったら、母さんは階段の途中までついてきてくれた。
ぼくが荷物をひっかけて戻ると、母さんはそれをひょいと取り上げて、重、と言った。
「こんな荷物担いで、家出しようとしたの?」
それがどんな問いかけかわからなかったけど、ぼくはなんでかすごく恥ずかしくて、うん、とかはい、とかこたえた。
母さんの笑い声は、ひどくひさしぶりな気がした。

家に帰って、まっさきに通されたのはいつものリビングで。
おずおずといつもの席に座ったぼくの前に、ほかほか湯気のたつ、カレーライスが置かれた。
特に料理が好きでも、得意でもない、母さんの定番料理。
平日の五日に二日はどこかのお弁当になる、いそがしいうちの食卓の、よくある光景。

一口には大きすぎるとり肉をかみながら、ぼくは泣いた。

おかたづけ十色/片付け/三水

 「片付け」と聞くと、私はなんとも牧歌的な気分になる。片付け、というより、「おかたづけ」だ。なんなら音階を付けて「おっかた づけ~♪」でもいい。こいつを2セットで歌うと、自然と身体がはきはきと面倒事に動きだす気がする。

 お片付けは基本、なにか楽しいことの終わりである。遊び呆けた一日の最後の、ヘンに気分の高揚した、それでいて眠いような気持ちを抱えて行う一仕事である。
あそんだらかたづけましょう、かえるまでが遠足です…… 幼少期のこうした刷り込みは、実は結構、その人を表すんでないかと、私は思う。

・・・・・・

 大学入学を機に、自身が小4から通っていたお菓子教室でアシスタントととして働くことになった。要はアルバイトであり、雑用であり、一応先生みたようなこともやっている。

「せんせー これどこー?」
「せんせー なにすればいいのー?」
「せんせー タオルー」

 子ども向けのお菓子教室というのは意外にないもので、県内県外問わず遠くから車で通う子が結構いたりする。ちょこまかと動いては袖をひいてくる未来のパティシエちゃんたちは、元気いっぱいやる気いっぱい(とも限らないが)でなかなか楽しいのだが……ちょっと目まぐるしすぎる。
台風のようなレッスンが終われば、満を持しておかたづけである。当たり前のことながら、これまた嵐のような忙しさ。手足どころか、耳も口も三人前は欲しいところだ。
ひっきりなしに訪れるおちびさん達と食器類と大先生の言い付けをいなして言いくるめてちぎっては投げ投げては均し、何とかカタがつくとようやく、自身のお片付けが始まる。その日のことを振り返りながら。

 アルコールスプレー片手に、シンクを拭きあげる。
…… 今日のアキくんはお皿の場所は分からなかったけど、コップは覚えてて、たくさん抱えて持っていってくれたな。いっぺんにたくさん持つとあぶないよと言ったら、それから一つずつ両手で運んでは、また狭いキッチンを縫うように往復してたのはかわいかったな、とか。

 使いこんだ箒で掃き掃除をする。
…… 今日のミカちゃんは他の子より手が早かったから、待ち時間の洗い物がたくさんで、ちょっとイヤになってたな。洗い残しは『もう一回』だから、余計にかわいそうなことしたかな、とか。

 布巾を片端から回収して、洗濯機に入れる。
…… 今日は長めのレッスンだったからヨウくんはもう飽きちゃってて、気づいたらぺたんと床に座ってたのは驚いたな。片付けしよう?と声をかけたら、「ヨウくんもういいよ?」って宣ったのには思わず笑ってしまった、とか。

 干してあった道具だの型だのを棚にしまって、やっとこさエプロンを外す。
…… 最近反抗期のエイくんは、今日はお父さん付きだったから比較的大人しかったかな。何か運ぶごとに「はあ」とか「ふう」とかいうけど、他の子より重いものをわざと選んで持ってるの、皆知ってると思うよ、とか。

・・・・・・
 
 お片付けは決して楽しいことではない。むしろその終わりである。
そして終わりには、その人から浮かぶごくごくちっちゃな色が出る。

律儀なおかたづけ、
イヤイヤなおかたづけ、
放りだしちゃうおかたづけ、
照れかくしなおかたづけ。

洗いたてのまっさらなタオルを広げて、
次にこれを手に取り、角を揃えてたたむ人を思って、
なるたけ丁寧な気持ちで、一枚一枚干せる人になりたい…… とか、思っている。

この異性愛主義者どもめ/気になるあの子/三水

 そもそもなぜ異性限定なのかから始まり、いっそ性転換してやろうか全員乙ゲー仕様にして逆ハー築いてやろうかとか諸々考えたのですが、どれも逃げ感が否めないのは何故なんだろう。突き抜ければジャンクに面白くなるのだろうけどそこまでやりきれる自信もなく、そもそもどうしてここまで特定の異性について表現することに忌避感があるのかとかまで考え出してしまって。
現実の異性関係に対する意識過剰が過ぎてこれぞまさにこじらせ女子。このまま異性愛イデオロギーに関する魂の反論もといただの非モテめんへら女のディスりに移行しても面白そうだけど、言うて経験値足りないしさして深イイこと書けるわけもなし。でも求められてるものはなんとなくわかるから、ここでどう足掻いても逃げなんだろうなと。

 いうわけで真面目に異性として書くけど、多分男性陣の中で一番興味があるのは清田教諭なのですよね。

今回求められているもの=知り合い以上恋愛未満みたいな甘酸っぱいものだとすると、まぁ例えばそうゆう展開を想定したとして、「あ、なんかちょっといいな。。。」と思う可能性があるのはもちろん環境的にも心情的にも同世代の人間なのだけど、さらに先の展開を考えたときに、秒で「いやメンドくせーわ」ってなって瓦解しちゃう。これはもう数少ない経験上間違いない。

だって同世代の人間と、特に異性と何かする時、例えばお出掛けとか飲み会の準備とか片付けとか、表面上普段の連続として対等に振る舞っていても、何かしらの瞬間、例えば会計だの荷物だのの時に力関係が出てしまうでしょう。どっちがリードするのこれはこっちのほうがいいいやここは俺が私が。ここで上手く立ち回って臨機応変にキメるときはキメて委ねるとこは委ねてってできるのがいい女(というか気持ちのよい人)ってもんなのだろうけど、生憎そんなかわゆさも器用さも持ち合わせてはおりませんので、ない頭絞ってもう自分でアレコレ計算するわけです。この場合の計算って例えば所要時間とか運賃とか質とか雰囲気とか向こうの好みとか、色気あるなしごちゃまぜで、もちろん最適なものとも限らないしこんな計算自体まどるっこしいとも思うし。でもってこの計算を出すべきときに出し仕舞うべきときに仕舞うという見極めを一々するわけです。この段階でもうご馳走さまなのに対等に振る舞っているからこそ譲り合いのぶつけ合いみたいになることもあるし、ああ、もう、とにかくめんどくさい。私が。

 だからいっそ端から相手にされなきゃよいと思うんですよ。どう足掻いても勝てない人挑むことすらバカらしくなる人。雲上人ってやつ。そんでもってたまに下される遥か彼方におわす方のご託宣通りにしていれば、少なくとも『ご意見渋滞』になることはないわけで。

 齢二十歳を超えて恥ずかしいのですが、この歳になってなお最も親密な異性が父親であるという段階で、もはや私の年上趣味は決まったようなもの。ほんと楽です父娘デート。変に気負わないし付いてきゃいいし、そうしてても誰も何も言わずに当たり前と受け取ってくれる。

そんなわけでスタジオ内から同性と同世代を除いた結果、清田教諭が「気になるあの子」にノミネートされました。

…… 満足かね。