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渦/台風/みくじ

 

 

布団の中でぼんやりと目を擦ると、右目の目尻に異様なざらつきがあった。少しびっくりしたが、起き抜けの頭ではどうにも大したことでは無いように思えた。手探りでつかんだコードを引っ張って薄目でホーム画面の時計を確認すれば、外の暗さに反して遅い朝だったが休日なので起きることもないだろう。

そうして体を横に向けて目をつむったり薄目を開けたりを繰り返すうちに、半開きの右目からぽたりと温かい液体が流れ落ちた。目が乾いていたり疲れていたりするとたまにこうなるのだが、今日のはそれにしても止まらない。

まだ体を起こすのもひんやりとした床を踏むのもまっぴらごめんだったのだが、枕が湿ってうっとうしいので、なんとか姿見の前まで這いずると、重たい瞼を持ち上げて目を開いた。目が黒い。目と言っても瞳が黒いのは通常のことだが、そうではなく、白目の部分がぼんやりと黒っぽく見えたのだ。ぼんやりというのは僕がかなりの近眼だからであって、さらに近寄ってみるとこれはまつ毛が束になって三本も入っていた。さすがにこれでは二度寝もできない。

電気をつけてひとさし指の腹で眼球をすくうとひじきが乗った。たかがまつげも三本が束になっていればいまだかつて感じたことのないような違和感があるのも当たり前だ。眼球へのやさしさを一切感じさせないタッチをしたことで、二度寝も億劫なほどに目が覚めてしまった。

目が覚めたとは言ってもこれといって家事をしようとも思えないので、電気を消して布団に入るとなんだか考え事をしてしまうような気分だ。

 

外は台風が来ている。ざあざあと長らく雨を降らし、風も吹かせていたが、あのあなぐらのように風の音がごうごうと地面までゆらすということもなく、家の中は静かなものだった。窓の向こうで風に吹かれてあばれる木々を見てふと、あの化け物はこんな風だったと思った。

台風というのは、なんでも南の海の上でできるらしい。温まった海水は蒸発して昇っては冷たい空に突き落とされ、繰り返すうちに渦を巻いて大きくなる。人の名前を付けられるが人の手にはどうしようもできず、ただその勢いが果てるまで渦を巻き続けるだけのただの気象現象。条件がそろってしまえば勝手に渦巻いてしまう、ただの現象だったのだ。

 

「今までにあったやつとそう変わらないじゃないか」

「いっそのこと、化け物をやっつけてしまえばよかったんだ」

僕が大仰に語ったことは、誰の目にも甚だ期待外れだったらしい。まさか期待されていたなんて思いもしなかったが、ここまで平坦な反応をされるとも思っていなかったのだ。思っていなかった。思い違っていた。勘違いしていたのだ。

それまで僕は僕なりに、かつてそれなりの時間を過ごしたあの化け物について語ることは、何かのためになると思っていた。何かというのは判然としないが、例えばこれから化け物にあってしまう人や、今までにあった人、さらに言えば自分が助かるような気がしていたのだ。そうして誰のためにもならず、自分のためにもならないということを知るためだけの徒労が終わった。

 

ところで、僕は事が起こってからそこに感情が追いつくまでに、人よりも長い時間がかかるらしい。具体的に言えば、その当時は自分に非があるのか飲み込んだことが、二晩寝て改めて振り返ったとき相手を徹底して批判してやろうという気になってしまうのだ。そうしてあの徒労を終えて数日後にやってきた台風は、今更とくに役にも立たない閃きと、遅れてきた不満への追い風を与えてくれる。

よく考えれば、化け物に向けた全ては渦巻く風に巻き上げられるビニール袋のように無力だった。無意味だった。何を変えることもできなかった。そのことを僕は、あのありふれた、つまらない言葉の羅列に詰め込んでたはずだ。化け物をやっつけてしまえなんて言ったやつはそのありふれたことすら分かっていない。つまらないから分かられなかった点は僕に非があるにしたって、例えば誰でも知っている暴風雨を伴う発達した熱帯低気圧をつまらなく説明した人に、じゃあ爆撃機でそれに突っ込んでみてはどうかなんて言うようなものだ。

いつも僕らのすぐそばに隠れているあの化け物のことは、しかし実際にあった人しか知らない。知ろうともされていないのだ。僕はそれを知らしめたかったのだろうが、誰も知りたくもないことを知らしめようとしたことは結局のところ、やっぱり徒労にすぎないのだ。

 

足音がする。擦れるような、それでいて叩きつけるような音だ。タオルケットを頭までかぶり息を殺すと、じんわりと埃がしみ込んでくるような感じがして鼻がむず痒い。くしゃみなんてしたら気づかれてしまう。鼻がぺらぺらになるくらい強く摘んで、音を立てずにゆっくりと口から息を吐く。

今日こそは完璧だ。食事の痕跡だってきっちりしたし、子どものにおいがしないよう換気したし、髪の毛の一本だって残していない。こうやって死体か人形のふりをして、気づかれなければ。大丈夫。きっと大丈夫だ。死体は息をしないし、人形に鼻腔はない。

何とかむず痒さをやり過ごして耳を澄ましていると、足音が物音に変わった。パタ、冷蔵庫を開く音。駄目だ。こぷり、ワインを注ぐ音。足音。ソファのきしむ音。ああ、もう駄目だ。テーブルとリモコンの擦れる音。テレビのうそ笑いに交じって、太く汚れた喉笛の鳴る音がする。

今日もまた眠れない。これは笑い声がうるさいからではない、壁の向こうにいるからだ。

しばらくしたら、どうせあの真っ赤に血走ったぎょろ目で、本当に死んでいるか確認しに来る。そして死んでいるとわかったら、今度は黒と紫でまだらに染まる口で臭い息を吐きかけて、媚びる様に擦りつき、かと思えば地を這うように唸り、吠え立てて暴れる。それが終わる頃には、この国の北の端ではもう朝日が昇っているのかもしれない。

それだって死んだふりがばれてしまうよりずっと良い。食事の跡やにおいや髪の毛を見つけられた日には、まず何回も殺されるところから始まる。子どものにおいに敏感だから、咳を漏らしたり汗をかいたらすぐにばれてしまう。だからって身を固くしすぎてもいけない。ぐにゃりと力を抜ききって、触られてもただの肉として振る舞う。光なんて眼に入らないし、吐きかけられた息の温度もにおいだって感じない。

こんな暮らしを何年もやっているはずなのに、死体のふりはたいして上手じゃない。何もできないから死んだことにしたのに、それだって満足に出来やしない。

 

起きたらまた枕が濡れていた。目尻には結晶のように固いやにがたまっている。雨の日の薄暗い微妙な明るさは変わっていなくて、ふて寝に失敗したと分かった。夢で見た血のような液体は、コップに入れてから半日ほど放置されている。合法的に飲める年になっても、これだけは避け(・・)ていた。酒だけに。

 

今のは忘よう。何でもない。僕は何も言ってない。

大人になって1年と数日がすぎて、よくわからない祝いの言葉と一緒にもらって、1口でリタイアした。においでイメージした通りに舌にも喉にも引っかかる苦みで、やっぱり人間の口には合わないものだと分かった。唇も目も赤くして、臭い息を吐くのはあの化け物だけで結構だ。

コップはこのままだと色が残ったりするかもしれないのでとりあえず片付けるとして、一度抜いたコルクがはめられなくて代わりに丸めたティッシュを詰めた瓶はどうしようか。せっかくもらったものを捨てるのは忍びない。ジュースに混ぜて少しずつ減らそう。よく考えると僕は砂糖味の飲み物はあまり飲み慣れないから、それだって本当に少ししか飲めない。

横たわったまま考えだけが先走るが、どうせ今はコップを洗ったりジュースを買いに行く気にはならない。もっとハードルを下げよう。

まず顔を洗う。涙に含まれるたんぱく質か何かの感触がいつまでも顔にあるから気持ちよく眠れないのだろう。そのついでにあの嫌なにおいの液体をシンクに流してしまおう。

 

じっとりした床は冷たく、ついつま先立ちになる。そうすると足音を立てずにフローリングを歩いて、夢の続きのような気持ちになった。冷たいのにも静かにするにもうんざりしたので、お湯の蛇口を思い切りひねって本当にお湯になるまでを観察した。

湯気が上がって鏡が曇って、少し晴れてまた曇るのを見届けて顔を洗う。化け物の目を盗んでひそひそと暮らしていたあの頃から考えれば、なんとも贅沢だ。蛇口から好きなだけお湯が出せる。お湯は顔の表面の気持ち悪さをすぐに忘れさせた。

せっかくお湯を出したのだから、茶でも飲むとしよう。蛇口から出たお湯とティーバッグをマグカップに入れ、少し電子レンジで温めるとすぐに紅茶が飲める算段だ。

40度くらいのお湯でも紅茶が少し出るらしく、ティーバッグの角をつたって赤茶の液体が細く落ちていく。お湯に流されながらも紅茶はあくまで紅茶として落下していく。小さい時に見ていたアニメのヒーローが魔法陣の周りに起こしていた風も、こんな風にくっきりとしていて、動きだけは柔らかかった。

落ちていく紅茶をじっと見ていると、足が冷たい床と一体化していた。さすがに紅茶の魔法も解けて、600W1分30秒を選択して布団に帰った。1分間、落下のことばかりが頭を占めていた。

 

 

 

 

【感想】

これまでのスタジオの文章に比べて、かない長い。それがここまでやりづらいものになるとは思わなかった。楽観視しすぎていた。小説ともエッセイともつかないような、やり方で書いているのは以前からだが、もう少しスタンスをはっきりさせないとこの長さで文体などが維持できない。計画性を持ちたい。

今までにないこと(字数が)だったので縛りを緩くしたのは正解だったと思う。それぞれ個性のある文章で長くても読んでいて飽きなかった。ただ、提出や評価などのルールは少人数だと曖昧になりやすかったので、次のグループワークではもう少しスムーズに進めたい。

今回の形式でよかったのは、グループ内でのコミュニケーションがしっかり取れたこと、人数が少ない分全員が運営に参加したことだ。メンバーが固定されることで書いているものについての変化や考えもわかり、グループとしての意識が持てた。

恋愛相談というかキャラテコ入れ/ネット記事/みくじ

 

アルテイシアの恋愛デスマッチ
この連載に最近めちゃくちゃハマっています。
今回取り上げるのは
「ハイスペ婚したけど幸せじゃない」自分がわからない女子にカウンセリング①
「新婚時代なんて思い出したくもない」自分がわからない女子にカウンセリング②
(①が2週間以上なのは許して欲しい)
https://am-our.com/love/218/14333/
https://am-our.com/love/218/14362/

筆者のアルテイシアさんは毒親持ち女子高育ちバリキャリ歴戦の恋愛傭兵でガンダムオタク、既婚者という私が求めていた人生の先輩。もっと早く出会いたかった、

それはともかく今回の相談者がすごい。何がすごいってまあとりあえず見てくれ。

 

相談に来たんだよね…?とそれはもう混乱させてくれる。ちんぷんかんぷんってこういうことか。
脳内でめちゃくちゃ猫なで声の頭の弱いギャルで再生されるのは私だけだろうか。(※相談者はそこそこ育ちのいい32歳派遣社員既婚)
この時点でかなり不安定な気持ちになってくる。

しかしここからが本番である。

 

怒涛の煽り!どこを見てもイラッとくる!
これで天然なら記念物クラス!

とまあ見てるこっちも怒りで知能が下がってきましたが一旦落ち着いてよっいせ。

逆にいるんですか?周りは~と小賢しい小学生のような言い方。
内容も、びっくりするほど浅はかだ。ドン引き。
なんでそんな何も考えず結婚してしまったん…?
し、しびあ…?意味分かってる?

また頭が悪くなってきましたので、ふぅ…
お局=40代独身って見方もなんというか、まあ私もこの人には意地悪()する自信がある。

ここで急ぎ足になって申し訳ないがラストのところ。

 

急に聞き分けが良くなる相談者。
スピードラーニングの皮肉も痛快だったけど、突然にいい子になるこの相談者は一体なんなんだ…。

果たして本気で言っているのか、面倒になってとりあえずYesにしてるんじゃと疑う気持ちがある一方で、あんなにでもでもだってだった相談者の吹っ切れにこちらも清々しい気持ちになってきた。オリジナルストーリーが暴走して散々文句を言っていた深夜アニメの最終回のような切なさがある。

ここまで読むと、能天気で考えなしで優柔不断なこの相談者が一周まわって可愛く思えてこないだろうか?
愛されるおバカとはこういう路線もありなのかもしれない。

そんなこともあった/絶食系男子/みくじ

 

Aセクシャル(アセクシャル、エイセクシャル)
無性愛者ともいう。他人に恋愛感情や性的欲求を抱かない人のこと。

 

私は2年くらい前、自分がそうなんじゃないかとちょっと疑っていたことがある。ちょっとというか割と疑っていた。

 

県内では勉強する学校だったし恋人がいたことがない人も珍しくなかったが、大学生になった途端そんな友人達もみんな彼氏が出来始めた。

1年生の5月、片道1時間半かかるにも関わらず隔週で会っていた地元の友達に初めての彼氏が出来た。
彼氏のクズっぷりをネタにしつつ幸せそうな彼女は今まで見たことないくらい可愛かった。

「彼氏いいよ。暇な時気軽に遊んでもらえるし。」

それはいい。めちゃくちゃいい。
一人暮らしで友達を作るのが苦手な私は、それはもう暇を持て余していた。隔週で多摩に出向くくらいには。
今まで、いたら楽しいかなくらいで必要性は感じていなかったが、初めてここで彼氏が欲しいと思った。

「みくじが誰が好きになるのは難しそうだけど、告白されたらとりあえず付き合いなよ。」

さすが私のことを分かりすぎている。

とりあえず告白されたら付き合う。片っ端から異性(に関わらず人間を)をブロックするのを辞める。オッケー任せろ。
1歩先輩となった友人の簡潔なアドバイスをスッカスカの頭に入れて横浜に帰った。

 

そこから7月までに何故だか3人くらいの男性と1度ずつ出かけたが、その3人とは別の人に「なんか好きになれそうな気がするから付き合って」と言わた。
今思えばこれで付き合うは流石にないのだが、告白されたらとりあえず付き合うと条件付けしたし、18年されなかった訳だから次がいつか分からないので合意してしまった。

しかし元々親しかったわけでもない先輩に対人恐怖症のコミュ障だった私が心を開ける訳もなく、またそんなクソな告白をする先輩が私を恋に落としてくれるはずも無く。

金無しバイト無し単位無しのその先輩はどこかデートに連れて行ってくれるでも無く、ご飯に誘ってくれるでもなく。
ただ私の部屋で何度か飯をたからせたある日、帰るのだるい(いや徒歩15分やろ)と言うので仕方なく泊めた。
その後は簡潔にまとめると、迫られ拒んで音信不通、自然消滅。

 

そこから冒頭に繋がるのだが、その一件が夏休み前くらいだったこともあり、暇で暇で仕方ない夏の間「私ってやっぱりちゃんと恋愛できない欠陥人間だあああ」と凹んだ。

今となってはちょっとした黒歴史だが、両親に「その歳で恋愛したことないなんて頭おかしい、人間じゃない」的なことを(今のでもだいぶオブラートに包んだ)言われまくっていた身としてはかなり深刻に悩んだ。
一人暮らしは寂しいから将来は似たような状況の人と偽装結婚でもしようかと考えた。

 

記憶の彼方に追いやっていたが、絶食系といえばそんなこともあったなあ。そんな呑気になるくらい今は楽しくしているので、あの時の追い詰められていた私にタッパーいっぱいのクッキーをプレゼントしてあげたい。

 

ちっっっっ/おっぱい/みくじ

ちっぱいの素晴らしさを語るには私の語彙はあまりに貧弱なのでとりあえずご覧頂きたい。

岡戸雅樹『ちっぱい女子』のAmazonサンプルからお借りしました。
https://www.amazon.co.jp/%E3%81%A1%E3%81%A3%E3%81%B1%E3%81%84%E5%A5%B3%E5%AD%90-%E5%B2%A1%E6%88%B8-%E9%9B%85%E6%A8%B9/dp/4813022049

 

もう好き。最高。見てくださいこの南半球。胸郭までの清楚でなだらかな線。

ちっぱいのいい所はですね、乗っかってないんです。身体と完全に馴染んでるんです。
直立状態で前から見た時、うっすら影が出来るけど線にならないくらい。横から見ても線と線のぶつかり合い、肉と肉の押し合いじゃなくてこの丸っこいふにゃっとした陸続き感。世界平和。

胸郭や胃の形がくっきり見えて、ちっぱいのほどよい丸みによってその全てが柔らかさを放っています。
抱きしめた時に胴体ぜんぶぴったり隙間なくくっつける反発の無さ。

Tシャツなんか着た時、ストンとしてると思いきや前かがみになったときのあやうさ。
そしてちっぱいにはキャミソール。ぜひともキャミソールを来て欲しい。タンクトップでも可。
巨乳は着衣でエロいんですけど、ちっぱいはギャップの火力が段違いなのです。
普段意識しないからこそ薄着になると途端にドキドキ。夏こそちっぱいの季節。

かたち/フェチ/みくじ

 

高校生の時、つまらない授業はずっと電子辞書にある動物図鑑と解剖図、骨格の解説を読んで時間を潰していた。美術部の後輩に貰った寄書きには「いつも骨描いてましたね」とあった。

どちらかと言えば筋肉よりが好きなのだが、別に骨格模型や白骨死体という意味ではなくて、熱を持つ身体の中に埋まって支えている骨を意識していたい。

身体が好きだ、というと不思議に思われるかも知れないがわたしはおそらく人より身体の形に関心が強い。
曲げられた肘の周りの皮のたわみだとか、緊張した時の肩の張りとか、のけぞった時の肋の隙間とか。

骨格が好きなのは人間に限らず、ネコ科動物のゆっくり歩く時に上下する肩(厳密には肩ではないが)や、草食獣の背骨のでこぼこは負傷を覚悟で撫で回したい。

先日胸の小さい女性への褒め言葉についての談議を目にしたが、鎖骨や肋の凹凸、胃の丸みが良く見える方が私としては宜しいと思うのだ。
筋肉も同様で、特に肩なんかは鎖骨から上腕までの繋ぎ目が分かりにくくなってしまうのは私としては残念だ。

そういう意味では男女を問わず痩せ型の方が骨を感じられるのだが、あんまり痩せ過ぎると骨密度が下がるし肉のクッションが無いと骨への負担が大きくなるので良くないと思う。
しかし骨や内臓の動きを感じられないほどに筋肉や脂肪で覆ってしまうのは惜しい。

足の指は親指だけが上を向いていて、ほかの4本は地面を掴んでいると意識している人ってどのくらいいるのだろう。
くるぶしの骨の丸く飛び出たところは内側の方が高い。右手を高くあげると左の肩は下がって、左の骨盤は上がって、重心は左に。

特に好きなのはねじれる下腕骨のカーブに沿う筋肉と、内臓を包み込む肋骨の丸み、腸骨の張り。
手首の動きは360度どこから見ても目を見張るものがある。手のひらと腕の間に少しずれた段差が作る陰影や曲線。

印象派の画家は線画を無くしてよりリアルな光を表現しようという動きもあったようだが、私の体感する世界には線画があるし、身体を描く線画は何よりも完全な形だと思っている。

だから何フェチかと問われたらつまり、私は身体の形フェチだと主張したい。

 

 

そんなよるにはうしのちち/気になるあの子/みくじ

ふわふわと毛足の長いモンスターにしてはちょっと可愛らしい謎の生き物(?)をかたどったリュック。
以前は同じようなふわふわしたニットを着ていた気がする。
底がちょっと厚くて黒くてツヤツヤした、紐で編み上げられたブーツ。なんだか童話っぽい。

胸元にプリントされたたらこ口のまたよく分からない生き物(?)。
知ってるぞ、たいていのちょっと都会の大型ショッピングモールの若者向けフロアにある、あの気の抜けたねこのキャラクターで有名な価格的にもサイズ感的にも私には手を出しにくいあのブランドだろ。しかも個性的な割にあまりにも店舗が多いから買えたとしても気後れというか、照れというか、なんか着づらい(と私が勝手に思っている)。

そんな格好をしている、もうザ・ふわふわサブカル男子みたいな。
こう、ふわふわの実用性なさそうな服着たふわふわサブカル男子然とした生活感のなさ。何考えてるのか分からなすぎて近寄りがたい。いや、近寄る必要もないかもしれないけど。

何食べて生きてるんだ。ガムか、グミか。いやでも焼肉食べてそうではある。うーん。牛乳飲めなさそう(すごい偏見)。
ボタン取れても直せなさそう。ニット手洗いとかシャツのアイロンとかしなさそう。してたら世間一般に言うところのギャップ加点が大きいかもしれない。

やっぱり生活感なさすぎると絡みにくいというか、親しみにくさが出るような。それは必ずしも悪い意味ではないけど。
私は牛乳大好きだから牛乳嫌いだったらそこは分かり合えないかもしれない。

calbee/食べたい/みくじ

「売ってるお菓子は添加物が身体に残っちゃうから食べちゃダメ、お母さんが作るお菓子には漂白した砂糖は使ってないから安心よ。」

「排気ガスがいっぱいだから道路沿いの公園には行かないで、日焼けしたら大変だから家を出る前にちゃんと日焼け止め塗りなさい。」

「ジュースに入ってる甘味料は人の舌をおかしくするの、帰ったら果物搾ってあげるから我慢」

みんなが公園で練ると色が変わるお菓子を食べながらゲームしている時、私はお母さんの手作りのクッキーを食べながら予習ドリルしかない部屋に篭っていた。
唯一の遊びは机の端に透明な水のりを垂らして固めることで、わざと気泡を入れたり色鉛筆のカスで色を付けたりするなど工夫を凝らしていた。お絵描きした紙は見つかってしまうけど、固まった水のりなんて丸めてしまえば消しカスと大差ない。
ところどころ色づいた透明なそれはスーパーで見かけるフルーツゼリーのようにも見えた。
「ジャンクフードなんて害しかないわ、そろそろお肌の荒れとか気になってくるでしょ。やめなさい。」

「コンビニのおにぎりには毒が入ってるから食べ続けたら病気になるの。」

「冷凍食品なんて何が入ってるか分かったものじゃないわ。私みたいに毎日ちゃんとお弁当作ってくれるお母さんは周りにいないでしょ?」

「部活?いいけどどうせ続かないんだから買うのがあるのはやめなさい」

 

クラスメイトが放課後にマックに溜まったりコンビニに寄るのを横目に、家に帰るのが窮屈に感じて図書館に通っていた。
ある日借りてきた村上龍のコインロッカーベイビーズが見つかって不適切な本を借りからいと図書館に行くことを禁止された。
深夜に布団の中でアクセス制限を掻い潜りケータイ小説を読むことだけが娯楽になった。
ケータイ小説のキャラクターたちもやっぱり放課後にマックに溜まっていた。
「カロリーメイトなんて人の食べるものじゃない、あんなの動物の餌よ。」

「また漫画見てるの。気持ち悪い。」

「叔母さんがケーキくれるらしいけど上手く断りなさい。どうせ美味しくないわよ。」

家にいる時間を減らす努力をするようになった。出掛けるのも好きじゃないし、予定なんてないからひたすら本屋で立ち読みをした。
ゆるい部活に入ると幸いにも趣味の合う友達ができ、誘われたら断ることは無かった。買い食いもするようになった。
友達には母を合わせたくなかったから家に呼ぶことはできなかった。

どんなに有機なんとかのなんとか農園で作った野菜に手間暇かけられていても、母の前で食べる、母の手がかけられた料理は美味しくなかった。
コンビニで130円で買ったメロンパンが美味しくて涙が止まらなくなった。
「元気?そっちは寒いでしょ。」

「ちゃんとご飯作ってる?一人だからってバランス考えないと」

距離という無敵の壁を手に入れた。
初めて駄菓子屋に入った。
私はねるねるねるねもマックのチキンナゲットも蒟蒻ゼリーも好きなだけ食べられる。
食事の時間にテレビを見ても、胡座をかいてもいい。

明日は高校の時の部活の友達が泊まりに来るから、ビールのお供でじゃがりこが食べたい。

それ私?/模倣文/みくじ

2016年は夏になろうとしている。夏生まれの僕は、夏が嫌いだ。

大きな川の近くに住むと、本当に虫、いや昆虫と言った方がいいかもしれない、がものすごく多い。もういやだ。

網戸はいくつかの穴が空いてる。一人暮らしだから、誰に依頼して直せばいいのか分からない。というか面倒くさい、お金をかけたくない。意味ないだと分かっていても一応セロテープを貼ってる。一日でも立つと、半分剥がれて、空中に浮いてしまう。

「頑張ってくれ」とセロテープに話をかけながら、物差し指でぎゅーとあれをあみあみに押し付ける。

太陽光で熱々になって焼肉でも焼ければいいのに。

だから窓は開けられない。実は狭いベランダに置いてある空調の室外機と物干し竿の間に、すでに綺麗な蜘蛛の円網が張られている。僕が家賃を払っている空間に自分の摂食活動をするのはあまりにも図々しい。

彼は間違いなく隙を見極め、網戸を突破して僕の部屋に進出しようとしている。狭い部屋に荷物がたくさん置いてあるから網を編むのに最高な環境だ。

天井に居座る巨大蜘蛛の退治はもうごめんだ。

北西向きの部屋は冬の時が日差しが差込めないので寒く、太陽が北回帰線に向かって移動するにつれ午後4時くらいになるとオレンジ色の日光が差込め北側の壁に落とす。ただでさえ暑いのに、お節介な光だ。

実家にいるお母さんとビデオ電話してて、
「なんか黒い虫がずっと飛んでるよ」
「え、あれ生ゴミから出てきたヤツじゃない」

まじか。昨日授業が午後からということで11時まで爆睡していたから当然ゴミ出しに間に合わなかった。

窓からの虫の侵入とずっと戦っていたが、まさか敵が内部にいたとは。やられたな。考えてみると、僕のこの6畳の部屋は虫を育んでいたんだ。

嗚呼気持ち悪い。

最悪までとは言えないけど、最近普通の生活でも着心地悪くなっている。電車から降りて、さりげなく携帯のホーム画面を見て、30分前にまぁまぁ仲良い知り合い2人に送がったLINEの返信はまだ一通も来ない。

嫌われたことをした覚えはないだけどな、なぜ突然世界から置き去りにされた感じになったのだろう。

自分は嫌な人ではない。それなりに社交的である。頭のいい集団に属している。という思い込みがあったからそこ、実はそうでもないと薄く気づき、自分の幻想世界が崩壊する時に絶望感が怒涛のように襲ってくる。

もうしかしたら、今僕は並行世界にいるのではないか。

帰路/棘/みくじ

 

 
坂。
帰路。
帰り道。
嗄れた声。
カラスの声。
猫が横切った。
ふと立ち止まる。
他に人も通らない。
長い坂を下っていた。
右の足のうらに違和感。
親指から少しかかとの方。
ちょっと痛い。刺さってる。
きっと、中に何か入っている。
大きさから考えて小石ではない。
まさか虫がなんてことはない。
と信じたいしそうなかろう。
そもそもいつ入ったのか。
今日ずっと履いていた。
脱いでないのにいつ。
きっとこれは棘だ。
植物かなにかの。
どこから来た。
どうやって。
いつから。
入った。
痛い。
棘。

 
________________

 

 

人差し指の手の甲側、第二関節に細かい線の跡がついていた。
白く細い引っ掻き傷が狭い等間隔でたくさん。
引っ掻き傷のスタート地点だけちょっと傷が深いらしく、赤みが出ていた。
気がつく前は痛みも何も感じなかった。
気づいてしまうとちょっと痒い。
掻きむしったらすぐ治りそうなものが悪化するかもしれない。
痒い。
こんな傷どこで。
いやこの細かさ。
細かく鋭いもの。
そうか、テープカッターか。

 
________________

 
私はサボテンが好きだ。
漢字で書くと仙人掌。
多肉植物で乾燥したところでも水分を溜め込み育つことが出来る。
もちろん私も鉢で育てている。
本当は部屋中をサボテンで埋め尽くしてサボテンの国を作りたいのだが、家族と暮らすにあたって一つに留めている。
私は身の回りの物に名前を付けたがりだから、サボテンにも名前がある。
能登。由来は品種のノトカクタスから。
小さくて丸い、細かい棘がびっしり。
実はダイソーで買った。
近所の大型ダイソーにいくつかサボテンが並んでいたけど、能登は群を抜いて美しく、可愛らしかった。
鞠のように丸っこく、細かい棘は産毛のようで、蛍光灯の下で柔らかく輝いているように見えた。
そんな能登は今、私の部屋の窓辺でてっぺんに黄色い花を咲かせて陽を浴びている。

どうたい/身体/みくじ

からだは骨に形作られる。
からだの中には大事な臓器が詰まっている。
からだ中を血液が駆け巡り、それを皮膚が覆っている。
胴体の話をしよう。
からだの真ん中、胴体から手も足も頭も生えている。
ハンガーみたいに、繋がった鎖骨と肩甲骨がからだを吊るす。
鎖骨の周りから胸にかけては皮膚が薄いから、静脈が少し透ける。
鎖骨の真上は皮膚と骨の間に肉がほとんどないから、触ると骨そのものの感触がある。
肩のあたりに繋がる部分があって、触るとごつごつする。その下から上腕骨に繋がる。
その中心を貫く背骨は頭の付け根から骨盤まで達してからだの支えになる。
犀の背骨は凹凸がはっきりしているけど、痩せていると人も丸っこい点線みたいになる。
背骨から生えてきて臓器は、それを覆う左右12対の肋骨に守られながら食べたものを、吸った酸素をエネルギーに変える。
恐竜や、大きな動物の肋骨を想像してほしい。
あの大きなからだに見合う大きな臓器をすっぽり覆うのだ。
脊椎から丸く包み込むあの大きなあばら。それに包まれて眠りたい。
夜の博物館に侵入して、おおむかしにいなくなってしまった海の大きな生きもののあばらに包まれて眠りたい。
肋骨は背骨からスタートして、上の10本は軟骨で結ばれる1つのゴールを目指す。
ネクタイみたいな胸骨。軟骨をくっつけやすいようでこぼこしている。肉の薄い人は指で弾くといい音がする。
肋骨の一番下と骨盤までの間にあいた空間は、へその上あたりに胃、その下に腸と膀胱。
おなかいっぱい食べた後、ふっくらする胃とそれに圧迫される下腹。
柔らかく、骨がないからよく動く。
ズボンのウエストあたりにかかる腸骨は人によってはとても張りだす。
骨盤に穴が開いて、その穴から覗き込める尾てい骨。
哺乳類は、この穴から出てくる。生まれてくる。
私は帝王切開だからちがうけど。
骨盤の左右の端から大腿骨に繋がる。このあたりも皮膚が薄い。ここで胴体はおしまい。