ヒロ のすべての投稿

ある雪の日のおとこのこたち/ぜんぶ雪のせいだ。/ヒロ

「……寒い」
雪が鉛色の空からしんしんと降っていた。
どうやら昨日の夜からずっと降り続いているらしく、屋根や道路にかなりの量の雪が積もっている。
少し外の様子を見に玄関から出る。ただでさえ寒かったのに、さらに寒くなる。
これだけの量の雪が積もるのはこの地方だとだいぶ珍しいことだった。このぶんだと今日も学校や会社に行かなければならないような人は大変そうだ。
「まあ俺も一介の学生なわけで。この中を学校まで行かなきゃいけないんだよな」
思わずため息が出る。白い雪に白い息、本当に嫌になってしまうような天気だ。舞い降りる雪が視界をチラついてどうにも気になってしまう。
「ほら、そろそろ学校行く準備しなきゃ遅刻するわよ。って寒っ! この天気だと今日は自転車使えそうにないんだから。歩いて行くんでしょう?」
母さんがわざわざ玄関の扉を開けてそう言って、やっぱり寒かったのかすぐに家の中に戻った。
何ともサボりたい日だけども、高校受験を間近に控えた身ではそんなことは言ってられないのが悲しいところだ。
「しょーがない。さっさと行きますか」

いつになく厚着をして中学に向かう。歩き始めてすぐに靴の中に水が浸み込んできて、ただでさえ悪かった気分がさらに悪くなる。
さらに天気予報でこのまま一日中雪が降り続くだろうと聞いたのだからもうどうしようもない。今からでも家に戻りたくてたまらなかった。
「はぁ、これも何もかも雪のせいだよ。そうさ、俺が受験に落ちたとしても全部雪が悪い。俺のモチベーションを最悪まで下げた雪が悪い」
そんな風にぼやきながら歩いている俺に後ろからやけに明るい声がかかってきた。
「おはよう! 何だよそんな暗い顔して、めったにふらない大雪なんだぜ。もっと楽しんで行こうぜッ!」
声をかけてきたのは近所に住んでいる保育園からの腐れ縁だった。こいつのせいでこれまで散々な目に会ってきて、このまま第一志望に受かればまた三年付き合いが伸びるかもしれないと密かに俺が危惧しているような、そんなやつである。
「……しょうがないだろう。こんなに寒い中、わざわざ歩いて学校まで行かなきゃいけないんだぞ。それなのに明るくなれるわけないだろうが」
「ええー、俺は雪が降ってるってだけでもう楽しくて楽しくて仕方ないってのに暗いやつだな」
こんなのなのに志望校判定はA判定なのがこいつのさらに腹の立つところだった。
「そうだ、雪合戦しようぜ! 楽しいし、動いたら温かくなるしで一石二鳥だ。これはもう合戦するしかねえな」
「しねえよ。なんで朝っぱらからそんな疲れるようなことしなきゃなんないんだ」
「お前は本当につまんねえやつだなぁ」
はー、とため息をついて言われる。ため息をつきたいのはこっちの方だよ、と思いながら無視して雪の中を歩く。その後も同じことを何回も言われたが無視して歩みを進める。
「なんだよ、ホントに雪合戦しねえのかよ。あっ、そうか。さてはまた俺に顔面に雪玉を当てられて泣くのが恥ずかしいんだな?」
その言葉に思わず反応して振り向く。にやにやと俺を挑発するように笑っている憎たらしい顔がそこにはあった。
「お前もう六年以上も前のこと引っ張り出して何言ってやがる! あれはな……、あれは雪が目に入っただけで泣いてなんてなかったんだよ」
「本当かー? あのとき痛いよー痛いよー、って泣いてたのは俺の気のせいだったっけかー?」
「この野郎!」
我慢の限界だった。後から思い返すとたぶん受験勉強によるストレスとか、雪の中を歩くことへの嫌気とか、恥ずかしい過去をからかわれた腹いせとか、原因は色々あったのだと思う。
とにかく俺は苛立った気持ちを全部込めてにやにやしている腐れ縁に雪玉を投げつけた。
「あっ、てめえやったな」
怒り口調で、だけども口元を大きく緩ませながら相手も俺に雪玉を投げつけてきた。こうなるともう抑えられなくて、近くを歩いていた他の友人も誘いながら雪がたらふく積もっている大きな駐車場へと駆け出して行った。
そう、俺も実は雪で遊びたかった。だってここまで雪が積もるなんて生まれてきて初めてというぐらいだったのだ。これで雪で遊びたくないなんて言うやつは男子中学生じゃないと言っても過言じゃなかった。

結局俺たちは学校のことも忘れてはしゃぎまわって盛大に遅刻した。そして、なんで遅刻したのか聞かれて口をそろえて答えた。「ぜんぶ雪のせいです」と。

酒とつまみとおやくそく/じゃんけん/ヒロ&やきさば&あおいろ

「あれ? 酒もうなくなったぞ。けちって少しだけしか買わねぇからこうなるんだ」
春樹が空になったビンを持ち上げて言った。
「何言ってんの。春樹ばっかり飲んでたからでしょう? また買ってくるならあなたが多く出しなさいよね」
知世がせっかく美味しかったお酒だったのに、と文句を言いながらテーブルの上を片付けている。
「それならまた買い出しに行く? それならとっておきのおつまみ出しちゃうけど」
僕も正直なところまだまだ飲み足りなかったので、そう言い添える。まあこの三人では春樹が最初に飲み過ぎるのはいつもの流れだからいつも通りではあるのだけど。
「おっ、そんじゃあいつもみたいにやるか!」
顔を真っ赤にした春樹がにっと笑っていつものセリフを口にする。
「やりますか」
「やろうか」
僕と知世も顔を合わせて笑って言う。示し合わせることもなくいつものようにする。
「「「最初はグー、じゃんけん、ぽん!」」」

ゲームサークル「じゃんけん」。それが僕が今所属しているサークルだ。
メンバーは僕、握汰(アクタ)と知世(チヨ)、春樹(ハルキ)の三人。僕たち三人は小学生からの付き合いだった。サークル名の由来はもちろん僕たちの名前だ。この三人の集まりを僕たちは昔からじゃんけんと呼んでいた。
サークルは僕たち三人だけで新しく誰かを入れることもない。これではサークルとは呼べないのだろうが、誰かに説明するときに困るのでそういうことになっていた。
運動が得意な春樹、勉強が得意な知世、社交力や根回しなんかの人間関係が得意だったのが僕。
好きなものも嫌いなものも何もかもが違う僕たちだったけれど、逆にそれが良かったのか僕たち三人が共に過ごす時間はとても楽しかった。
多分僕たち三人は二人だけだったら上手くいくことはなかったと思う。三人の内一人でも欠けていたらこれほどに仲良くなることはなかったはずだ。
僕は二人のことが大好きだった。だからこそ、この心地よい時間がもっと続いてほしいと心から願っていた。

「ただいまー」
結局今回負けたのは僕だった。すぐ近くのコンビニで二人が好きな酒を買って帰る。
「おかえりー。ほらほら早くつまみ出してくれよ。俺お前の作ってくれるつまみ大好きなんだよ」
春樹が強引に肩を組みながら言ってくる。酒が回るととべたべたとしてくるのが春樹のいつもの酔い方だった。
「お帰りなさい。私はワインを早く出してほしいな。あっくんのおつまみ、お酒との相性が最高だからねー」
知世は酔うと少し甘えた口調になるタイプだ。
「はいはい。今から出すからちょっと待ってて」
笑って二人に答える。二人のためになることが嬉しかった。
そう、僕は二人のことが大好きなのだ。愛している。もちろんそういう意味でだ。
「二人とも」
うん? と知世と春樹がこっちを向く。にっこりと笑顔で言う。
「大好きだよ」
二人の顔が酒を飲んでいるときにも増して赤くなる。
それを見て僕は台所に向かった。そして、先ほど言った、とっておきのつまみを取り出す。
今日も楽しく三人で飲もう。この時間がいつまでも続くことを願って。

死にたい/自分大好き/ヒロ

自分は好きじゃない。むしろ嫌いだ。
いつも自分の行動にはうんざりさせさせられるし、腹が立つことも多い。こんなやつに生きてる価値なんてあるのかとはよく考えることだ。
でも結局はそんな自分を直すこともせず、嫌いな行動を取り続けている。
もしかしたらそれはそんな自分を好きなのからかもしれない。

なんてことしか自分大好きと言われても思いつかない。
正直辛い。やっぱり私は自分が嫌いだ。

低温やけどもしない温度で/あったかい/ヒロ

「それでは今日の講義は終わりです」
 この授業で初めて顔を合わせた教授がパソコンの電源を落としながらそう告げた。
 荷物をまとめ、上着を着ると、提出物を出して教室を出る。すぐに耳にイヤホンを挿し、外の音をシャットアウトする。他の講義も終わったようで、周りの教室から学生が出てくる。顔を合わせないように地面を見つつ、すれ違う人を避けて大学を出る。僕は人が苦手だった。
人込みから抜け出て吐く安堵の息が真っ白で、それが僕から失われた生気みたいで少し可笑しかった。
 
三十分ほど歩き、下宿先に着く。”ただいま”という言葉もなく扉を開ける。家の中からは出る前に点けた換気扇の音だけが聞こえてくる。
スマホの電源を点けたが何の通知も来ていなかった。いや、スパムがいくつかは来ていた。ここ最近、僕のスマホに連絡を入れてくれたのはどこの誰とも知れない、僕を隙あらば食い荒らしてしまおうと考えているような人だけだ。ため息が口から漏れた。

部屋の中にある少し大きめのベッドに入る。最初は冷たかったが、しばらく入っていると温かくなってきた。
部屋の空気は冷たいままだったけれど、布団の中だけは温かかった。
寒くなると人肌が恋しくなるというものだけど、僕には求めるような恋人も、代わりに傍に居てくれるような友人もいなかった。
居てくれるのはいつも僕を優しく包んでくれている布団だけ。布団は僕を裏切ることも求めることもなく、包むことしかしてくれなかった。その温かさが僕にはとても心地よかったのだ。

テレビを点けると明日はお出かけ日和だと天気予報士が言っていた。僕には家を出る予定なんてないけど、布団を干そうとそう思った。

ごはんですよ/食レポ/ヒロ

未だネタが被っていないうちに投稿する。
私が出すのは白米である。
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艶々の米。いくら食べても飽きない。日本人のソウルフード。
私は常々給食は全て米になればいいと考えている。朝食はパンよりも米。それぐらいには米を愛している。
一口食べる。やはり美味い。
今回は食レポだが、他の人も米の美味しさは知っているはず。改めて解説する必要などないだろう。
言っておくが手抜きではない。手抜きではない。

……本当は私が一番好きなうどんを出そうと思ったのだが我が家にストックはなかった。

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今回味噌汁は用意したが、おかずは予算の都合で用意することはできなかった。各自でお好みのおかずを想像してもらいたい。
白米だけで食べるのもいいが、世の中には様々な米の食べ方がある。ふりかけをかける。お茶漬けにする。「ごはんですよ」と一緒に食べる。他にも人それぞれに食べ方はあるだろう。
もっとみんな米を食べるべきだ。私は断固としてパンよりも米を勧める。だがうどん等の麺類は認めたい

ああ、神様お許しください/夢の対決/ヒロ

 神々と人間が戦ったならばどうなるのだろうか。
手元にあるクトゥルフ神話TRPG のルールブックを見てそんなことをふと思いついた。

TRPGやクトゥルフ神話を知らない人のために軽く説明をしておこう。
TRPG とは参加者同士のコミュニケーションによって物語を作り上げていく遊びだ。略さずに言うならば、テーブルトークロールプレイングゲームになる。基本的には参加者の一人が「ゲームマスター」を担当し、遊ぶためのシナリオを用意する。残りの参加者は「プレイヤー」を担当し、そのゲームの世界に存在する人物を作り上げ、その人物になりきってシナリオを遊ぶという遊び方をする。
MMORPGやRPGゲームを想像してもらえばわかりやすいだろうか。運営や開発チームがゲームマスターで、ゲームのキャラクターがプレイヤーにあたることになる。
 詳しくは私に聞いてみるか、一度調べてみるか、リプレイ(TRPG の様子を文章に起こしたもの)を読んでみるといいだろう。

クトゥルフ神話は名前なら知っているという人が多いのではないだろうか。ウルトラマンティガの怪獣はこの物語の怪物をモデルにしているし、数年前にはなるがこの物語の神格たちをモデルにした「這い寄れニャル子さん」というアニメも流行していた。ネクロノミコンという有名な魔導書なんかもクトゥルフ神話がもとになったりしている。
簡単に説明すれば、この世界には私たちが想像もつかない、見ればとても正気ではいられないような恐ろしい怪物や神々が存在するのだという感じの物語群である。興味があれば自分で調べてみていただきたい。ただしグロテスクな表現が苦手だという人はあまり調べないことをお勧めする。

TRPGの中でもクトゥルフ神話TRPGでは戦闘=死と言われているようなゲームバランスになっている。中でも神格のデータは遭遇するだけで死ぬとまでよく言われている。少し興味が出たので試してみることにした。

まず平均的な人間のデータを見てみる。
STR(筋力):9
CON(体力):9
SIZ(体格):12
INT(知力):12
POW(精神力):9
DEX(敏捷性):9
APP(外見):9
EDU(教養):12
これが普通の人間の能力を数字に表したものになる。ちなみにこの人間が何かを殴った時の威力は平均して3ダメージということになっている。これはこの人間が大体三回本気で殴られたら死ぬというぐらいの威力が出るということだ。

続いて代表的な神格、クトゥルフのデータを見てみる。
STR:140
CON:110
SIZ:210
INT:42
POW:42
DEX:21
……改めて見てみるとこれは酷い。人間が殴って殺そうと思えば大体54回殴らなければならない。しかもデータには超筋肉を持っていて、21ダメージ分のバリアがあるとまで書いてある。まず人間の力ではどうやっても傷一つつけられないということになる。
この神だが、かぎ爪と触肢の二つの武器を持っており、かぎ爪は66のダメージが平均で出て、触肢は33のダメージが与えられる。しかも、この攻撃は外れることがない。たった一回爪を振るだけで七人は一瞬で死ぬ威力が出ることになる。
しかも常人はこの神を見るときに正気を保てるか判定することになっている。失敗すればその人間は普通に正気を失い、精神病院送りになる。戦おうとすることすら人間には難しいということだ。
やはり人間が神に挑むものではない。

他のニャルラトホテプやクトゥグア、ハスターなどを見てもその出鱈目さは同じだ。所詮私たちはちっぽけな人間。恐ろしい怪物や神々と戦おうという行為自体が愚かなものなのだろう。

お米を食べよう/大作戦/ヒロ

「それではこれより大規模な稲作をする戦闘集団の会、略して『大作戦』の定例集会を始める」
 首領閣下のその言葉に集会に出席している俺を含めた下っ端戦闘員たちが一斉に「エーッ」と声を上げた。今日も上手く声を合わせることができた。思わずにやけてしまいそうな口元を引き締めながら首領閣下を見上げる。
「我々が国の減反政策に苦しめられてからどれほどの月日が経っただろうか。君たちの父も祖父もあの忌まわしい政策に稲作の量を減らされ、例えようもない悔しさを、屈辱を、これまで延々と受けてきた。だが、我らの雌伏の時ももう終わりだ!
 これより我々は憎むべき怨敵、パン。そしてそれを喜んで食すあの非国民どもに天誅を下すのだ。さあ、立てよ我が戦闘員たち。米が食卓に帰ってくるのだ!」
「ジークライス! ジークライス! ジークライス!」
 俺たちは涙を流しながら叫んだ。叫ばずにはいられなかった。今、俺たちの心は一つになっていたのだ。

「お疲れ様」
「あ、お疲れ様です」
 集会も終わり、控室で全身タイツの戦闘服から普通の服に着替えていると後ろから声をかけられる。同じ戦闘員のなかでも同期の北郷さんだった。
「どうだい、今日これから一杯?」
 そう言いながら手でくいっと酒を飲む動作をしてくる。
「いいですね。あー、けどすいません。今日はこれからちょっと用事がありまして」
「そうなのかい?」
「はい。すいません。先に失礼します」
 もう一度北郷さんに謝ってから秘密基地から家に帰る。本当に今日はすることがあるのだ。

 家に帰ると少し大きめの段ボールが届いていた。
「やっぱり届いてたか」
 段ボールを開けるとそこには一本のベルトが入っていた。このベルトは「大作戦」に対抗するための武器である。
 俺は大作戦の裏切り者だ。大作戦に感じてる仲間意識も嘘ではない。それでも俺は自分の本当の心を偽ることができなかった。
「俺は本当は、うどんが好きなんだ……。米も好きだけど、俺はうどんの方がいい」
 このことを大作戦に知られるわけにはいかない。俺は食卓の自由のために戦うのだ。

惑星の黄昏/片付け/ヒロ

 明日世界が終わるとしたら何をするのか。
 そんな現実味がない問題が現実となってしまったら、人はいったい何をするのだろう。
 
 それは何でもないいつも通りの一日に起こったことだった。
俺も特にその日が特別な日になるなんて思ってもみなくて、いつものように出勤時間に間に合うように起きて毎日と同じように会社に行くために家を出ていた。
 時間は正確には覚えていない。だけど、そのとき世界中の人が同じ言葉を聞いた。
「お前たちは世界を破壊し、浪費しつくすばかりで進歩の欠片も、進歩しようとする意志も見ることができない。なので私はもう一度この世界をやり直すことにする。明日の太陽が昇るとき、この穢れた世界を洗い流す」
 耳で聞いたというよりは脳内に直接語られたような声だった。ありえない、ただの冗談にしか聞こえない言葉だったのに、俺にはそれが事実なのだと何故か理解することができてしまっていた。それは他の人たちにも同じだったのだろうと思う。
 
 それから世界中がパニックに陥った。
 ある人は絶望して自殺をし、ある人はこれで終わるのだからと好き勝手に犯罪を犯し、ある人はどうにかして助かろうと核シェルターに引きこもった。
 明日世界が終わる。ノアの大洪水の再来。俺たち人類はその事実に対して何もなす術も持たなかった。物語のように英雄が現れて、問題を解決してくれるなんてことは起こらなかった。
俺は世界が終わるなんてどうにも実感できなかったけれど、無性に悲しくなって涙を流してぼうっとしていた。空に浮かんでいる太陽だけがいつもと変わらなくて、少し安心した。

それから俺はなんでだかわからないが会社に出勤していた。上司はおらず、同僚が数人だけいた。みんな現実を見ていないような、遠いところを見ているような顔をしていた。俺も仕事をしようにも、して意味のある仕事なんてもうなくて、俺は書類をじっと眺めるばかりだった。

気づくと何時間もそれから経っていて、連絡のついた友人たちと最期の晩餐をすることにした。レストランや居酒屋は当然のことながら営業していなくて、スーパーやコンビニも荒らされていて、準備をするのが一番大変なことだった。
俺たちは何とか食料と酒を持ち寄り、ひたすらに騒いだ。お互いに今まで打ち明けられなかったようなことを大声で語り合い、殴り合って、気が狂ったように笑ってから子供に戻ったように泣きじゃくった。初めて心が通い合って、お互いのことすべてを信じられた。なんでもっと早くにこんなふうになれなかったのかと悲しくなって、俺はまた泣いた。
騒ぎ疲れて眠くなって、気づけば友人たちは眠っていた。
なんでこんなことになってしまったのだろう。少なくとも俺は誰に恥じることもないように生きてきたのだ。生きていく価値がないなんて勝手に決めつけられるような人生ではないつもりだったのに。
電気会社の人も働くのを止めたのか、今や町中が暗く、月と星々だけがこの世界で光を放っていた。
願わくば、次の人類はこんな結果になりませんように。
そう輝く夜空に祈って俺も深い眠りに、人生で最後であろう安らぎに身を任せていった。

次の日世界のすべては洗い流された。

つまらない人間にはなるな/気になるあの子/ヒロ

 気になる女の子、そのテーマで少しスタジオ内の女性のことを考えてみたが、何ともこれが難しい。一年生はまだ顔を少し覚えているだけで、名前は全然覚えていない。さらに、忘れてしまっている人もいるだろう。二年生は、となると一年生よりも難しい。少なくとも一年はスタジオ内で関わりがあったはずだが、あまり記憶に残っていない。正直なところペンネームと顔は把握しているが、話したことなどほとんど無い。情けない先輩だとも思うが、許してもらいたい。

 となると三年生しか残っていない。しかし、三年生とはゼミで色々と話し合っている仲だ。気になると言えば気になるが、その興味は異性へのものというよりも、どうしてそのような人間なのか、どのような考えをしているのか、というような人間的なものだ。

 とりあえず誰を相手にするか考えてみる。ゼミ内の女性で自分があまり話したことのない人、となると「ちきん」だろうか。彼女とは基礎演からの付き合いであるが、話したことは全然ない。そこらへんを考えると自分にとって一番気になるのはやはり、ちきんになる。

 そんなことをゼミ中に話したらどちらも受け身な人間であり、お互い積極的に動かないからそうなるのも当然と言われた。ここにきて自分が受け身な人間であることを改めて理解した。確かに自分は積極的に他人に話しかける人間ではない。周りに知人が一人もいない状況や、その場の人間とコネを作りたい状況でもなければ私は誰かに自分から話しかけはしないだろう。
 自分が他人に興味がない人間だと実感する。そりゃ周りからの評判は気になるし、怯えることもあるが突き詰めて考えるとどうでもいいと感じてしまう。本音を言えば、自分が友人だと思っている以外の人間なんて興味ないし、どうでもいいのだ。ゼミ内の人のことは友人だと思ってはいるが、理由がなければ別に話しかけようとは思わない。一人でいることが特別好きなわけではないが、無理して誰かと共にいようとは思えないのだ。たぶんこの性格が大きく変わることはないと思う。ちきんとの間もそのままだろう。

 気づけば、自分語りが中心になってしまっていた。これではエッセイというよりもただの日記か独り言だ。こんな駄文を読んでくれた心優しい後輩には忠告するが、もっと友人を作ろう。このスタジオにこれからも所属するなら周りのスタジオ生とはそれなりに長い付き合いになるはずだ。少なくともこんな他人に興味がないような先達の後は追わない方がいい。きっと損の方が多いだろうから。
 同級生には感謝の言葉を。なんだかんだと言ったが、ゼミのメンバーたちを友人だと思っているのは事実である。実は私に話しかけてくれるだけで内心喜んでいる。これからも仲良くしてやってくれると嬉しい。

いたってよくある普通の朝食の光景/食べたい/ヒロ

「……ん?」
目を覚ます。太陽の光が顔に当たっていた。どうやらこの光で目が覚めたらしい。時計を確認してみるが、出社の時間までにはまだだいぶ余裕があった。
このまま二度寝というのもいいのだが、なんとなく早めに起きる気になって布団から出る。
適当に飲み物を冷蔵庫から出し、朝食の用意を済ませる。
「朝からこれを食べるなんて贅沢だよな。少し前まで食糧不足で大変だったのが嘘みたいだよ」
朝食をフォークで刺し、口に運ぶ。美味しい。やはりご飯は新鮮なものが一番である。活きが良くて刺しづらいときもあるが、新鮮さから来るこの味のことを考えればそれぐらいの面倒なんてないようなものだ。
ニュースを見るためにテレビを点ける。どうやら今日の天気もいいらしい。太陽の調子が悪いと色々と大変なので、少し安心する。ニュースは私たちの大切な食糧生産のことに移った。
「そのようなわけで、今年も私たちの食料は心配なさそうです。私たちの苦しかった生活もすっかり上向きになっており、すでに過去の出来事となっているようです。牧場が完成するまでとても長い年月がかかりましたが、これからも新鮮で活きのいい食料が皆さんのもとに届けられることでしょう」
牧場の調子もよさそうだ。私たちが長い間待ち続けた甲斐があるというものだろう。
そんなことを考えながらもう一口朝食を食べた。先ほどのものに比べると少し脂が少なく、骨ばっているように感じる。まあ、先ほどのものよりも最後の声が心地よかったのでプラスマイナスゼロといったところだろう。
少し足りなく感じたので小さめのを取り出して、食べる。少し塩味がきつめになっていたが、若い肉だったからか柔らくて美味しかった。
ニュースでは牧場のことをまだ放送していた。まあ牧場の完成はずっと期待されていたんだ。ことあるごとに長く取り上げられるのはしょうがないことだ。
「このたび地球で完成しました人間牧場は非常によい肉を供給しています。完成するまで二百万年ほどと少し長かったですが、そのぶんよく肥えていて素晴らしい肉となっているようです。牧場長も『最初の段階で完成させることも考えたのですが、文化が成熟し、餌をよく食べ、よく肥えるまで待って正解でした。血の味も肉の味も断末魔の叫びも非常によい出来で仕上がっております。これからも地球産の人肉をより多くの悪魔の方に食してもらいたいですね』と喜びの声をあげています。私も早く家に帰って地球産の人肉を食べたいものですね。それでは次のニュースです。銀河系間の移動方法について、新しい方法が注目されているようです」
そこまで聞いたところで時計を見るとそろそろ出社の時間だった。のんびりと人肉を味わい過ぎていたらしい。ゆっくりと出社の準備をする。
ああ、今日も早く帰って人肉を食べたいものだ。