「はな」カテゴリーアーカイブ

もう一つの物語/はな/ケチャねえ

 

「ええ。そうです。私のこの右手で握った刀で腹部を一突きしたんです。その時の感覚?もうね、私が殺ってやるんだっていう気持ちただそれだけですよ。」

 

 

途絶えないシャッター音が鳴り響く。何百人という報道陣がかけつけ、我こそがと質問をなげかける。全員の視線の先にいる人物は鼻高々に質問にこたえてゆく。

 

 

「あなたは今日本中のヒーローですね?あなたが日本の未来を変えたといっても過言ではないでしょう。国民の皆さんに一言お願いします。」

 

 

「私は使命感とともに戦ってきました。数か月前鬼どもがこの町の食糧をかっさらい、国の民たちが泣き叫ぶ様子を見て、私がこの手でたおさなければ、と。でもみなさん安心してください。今日からは再び平和で安全な地に戻るのです。私は金銀宝などなどが欲しくて鬼どもを討ったのではありません。皆様の応援のおかげでございます。

とはいっても、猿、きじ、犬には感謝しています。私一人では到底打ち勝つことなんてできなかったでしょうからね。鬼ヶ島へ行く途中彼らと出会えたことで、あの意地汚い、醜い鬼どもを協力して倒せたんだと思います。」

 

 

「桃太郎さん、鬼ヶ島にはたくさんのお宝があったとお聞きしましたが、あの鬼どもが自分たちで隠していた宝や食糧はこれからどうするつもりですか?全く最低なやつらだ。あいつらのせいでわれわれ人間がどれだけ迷惑したと思っているんだ。」

 

 

「まあまあ、落ち着いてください。もうこの世に鬼どもはいないんですから安心してください。一匹残らず私が処分してきたので。隠していた宝はすべてこちらに持ってきました。食糧はみんなで山分けしましょう。お宝は寄付でもお金に換えるでも好きなようにしてください。残りは私の墓と一緒に埋めてもらえたら、、なんて、、はっは冗談ですよ。」

 

 

 

桃太郎は生まれた時から、武道に励み、両親に目一杯感謝をし、一生懸命生きてきたらしい。

 

 

お父さんが殺られたニュースを僕はどういう気持ちで見ればいいのだろう。

 

 

ボロボロの時計に一粒の涙が落ちる。

あの時、桃太郎はこんなボロボロな時計なんの価値もないって言ったけれど、僕にとってはお父さんが最期にくれた大切にくれた形見なんだ。

 

 

仲間はみんな殺された。僕が桃太郎をまたやっつけたって、桃太郎の子供がまた僕を殺しにやってくるだろう。

悲しみ?怒り?それとも復讐心?

 

 

孤独と空腹に耐えながら、僕は長い眠りについた。

 

花に嵐の/花(はな)/温帯魚

 

雨が降っていました。道路にできた水たまりは彼らの輪郭だけを映しています。なんで悲しくなったかもわからない少年は、振り向いて走ってきた少女に叫びました。

「さよならだけが人生だって誰かが言ったんだ。ほんとうにそうなんだ。」

傘を持たない少年は、自分が泣いているのかもわかりません。

「いつかこの星は渇ききって壊れてしまって、宇宙もすべてブラックホールに埋め尽くされて、それさえなくなって世界は本当に何もなくなるんだって。だったら、生き物が何かを残すために生きているなんて全然嘘っぱちじゃないか。じゃあ僕たちは何のために生きているっていうんだい。誰かが望んだ永遠はどこで消えてしまったんだい。」

少年は少女といることを望みました。

 

雨が降っていました。少年は雨に濡れて立っています。少女は困ったような顔で、急に家を飛び出した少年に答えました。

「きっと違うと思うの。」

少女は少年が泣いていることを分かっていました。

「この星は終わりの時に、花火みたいに爆発するの。何百、何千という赤色や緑色の光になって、最後に一度だけ自分から輝いていくの。大昔になくなってしまったお花を一つ一つ懐かしむようにいろんな形になって、それをどこか遠くに届けるの。その一瞬はきっと、混じりけのない悲しさで、なによりも澄んだ美しさで、そして、とっても素敵なコトなの。」

少女は少年が好きでした。

 

「あの詩は悲しい詩なんかじゃないの。」

そう言って少女は、花のように笑いました。

「だから、泣かないで。私たちのサヨナラも、きっととっても素敵なものになるから。」

 

 

 

 

雨が降っていました。少年だった彼と少女だった彼女がいます。明りのない彼女の部屋で、彼は独り言のように呟きました。

「きっと僕たちはサヨナラをし損ねたんだ。馬鹿な僕が君を自分のモノのように勘違いして、いつまでも君を手元に置いておこうとしたから。君の気持ちにあの時気付きながら、臆病にも何も君に言わなかったから。そのくせ君の存在に耐えられなくなってしまったんだ。僕は、君が何にもなれなくなってしまいそうな気がしたんだ。言ってしまえばよかったんだ。散ってしまえばよかったんだ。」

彼は少女が好きでした。

「雨に濡れても散らなかった花は、腐ってしまうしかないのに。」

 

雨が降っていました。テーブルには空のグラスが置いてあります。彼女は彼などいないように泣き叫んでいました。

「違うわ。人生はサヨナラなんかじゃない。私の人生はサヨナラなんかじゃない。素敵なサヨナラなんてないことはずっと前から知っていたの。アナタに言わなかっただけ。でもいいの。アナタを愛することしかないの。ずっとそうしてきたから、私はそれ以外知らないの。愛してくれなくていい。そんなことどうでもいい。ただ傍に居させてほしいの。アナタなんて関係ない。そうでもしないと私は何のために生きてきたか分からない。愛してる。だから私からアナタを奪わないで。」

彼女は少年といることを望みました。

「私の人生をサヨナラにしないで。」

 

「あの詩を悲しい詩にしたくないんだ。」

そう言って彼は、嵐のような悲鳴の中で言いました。

「僕たちのサヨナラを、これ以上醜くするのはやめよう。」

 

花の似合う人/花(はな)/きりん

今日も僕は立野さんに登りに行く。

この世界では、ある日突然てのひらに穴があくことがある。さらに、その穴から吸い込んだものと融合する病気“バイオ・バグ“。バイクを吸い込んだらバイク人間に。蜘蛛を吸い込んだら蜘蛛人間に。分子レベルで結合してしまう。融合がいったん暴走、クラッシュしてしまうと吸い込んだものに寄りすぎて戻れなくなることもある。吸い込んだものを吐き出す解除薬が開発されるまで、勿論世界は大混乱し、多少落ち着いた今だってまるで壊れかけた吊り橋の上みたいに危うい生活を僕たちはおくっている。

そんな生活でも学校はちゃんとある。立野さんは同じ学校のクラスメイトだった。特別華があるわけではないけれど、随分と大人びていて、物静かで、ひっそりと注目を集めるような子だったように思う。長くてまっすぐな黒髪が目立っていた。

僕はたまたま出席番号順の清掃班が一緒で、ちょくちょく話をすることがあった。普段はあまり会話もしないのだが、掃除の時間の間だけ彼女と僕は波長めいたものが合うようだった。なんてことのない会話のなかで、立野さんはたいてい穏やかで、ふとした瞬間にちょっと仄暗い雰囲気をまとっていた。そんな関係はとても薄いものだったけれど、僕も、そして恐らくは彼女も、お互いに親しく思っていたのだ。

そんなある日、立野さんのてのひらに穴が開いた。バイオ・バグだ。三時間目の最中、ふと視線を向けると立野さんが自分の手をみつめて固まっていた。「立野ちゃん?」と、隣の女の子が声をかけても、動かない。「あっ、バグじゃん!!」とその子がすっとんきょな大声をあげ、周りが騒ぎだし、すぐに立野さんは人影で見えなくなった。
その日、立野さんは掃除には来なかった。放課後すぐに市役所へ届け出と講習を済ませにいったらしい。別に珍しいことでもないのだけれど、代理を頼まれたらしい子が楽しそうに話していた。

翌日、週替わりの掃除場所に向かうと立野さんが一番乗りで来ていた。義務はきちんと果たしたい僕と、優等生的立ち位置の立野さんが掃除場所にまっさきに二人揃うのはよくあることだ。今日もまた人気のない廊下で顔を見合わせて苦笑する。
「早いね」「まあね」荷物を置いて、他の面子を待たずにさっさとロッカーから箒を取り出す。
のんびりと箒を動かしながら立野さんがぽつりと訊いてきた。
「竹岡くんって、バグ持ちだっけ?」
「いや?あ、そうか。立野さん、穴あいたんだっけ」まるで自分が穴だらけになったみたいに感じられたのか、僕の返答にちょっと微妙な顔になって立野さんが手をとめる。
「うん、てのひらに」
「柄どんな?見せてもらっても構わない?」
「いいよ」こちらへ差し出された右手をのぞき込む。華奢な手の中央に可憐な花の模様が浮かんでいた。「かわいいね」「ありがとう」
立野さんの笑った顔ははにかむようで、いつも大人びた感じが薄れてかわいらしいと密かに評判だ。似合っていると思う一方、かすかに違和感を感じる。刹那、笑みを消した立野さんからあの仄暗い気配がした。

「でも……私にはこの花じゃないと思わない?」

「もう何か試したの?」
「ううん。まだ迷ってる」
「楽しみにしてるよ」
その日はそこまでで他のクラスメイトやら担当教師やらがきたので会話が途切れた。

立野さんが暴走、バグ・クラッシュしたのは二週間ほど後のことだった。

彼女は何を思ってか、食虫植物を吸い込んだらしかった。随分と巨大化したので、他にも何か吸い込んでいたのかもしれない。
以来、僕は時折彼女に会いに、彼女を登りに行く。

調布市の観光スポット うつぼかずら立野さんトレッキング
ご注意
・立野さんは食虫植物と融合したバイオ・バグです。
・性格はおとなしいですが、その習性上半径 62 メートル以内の移動物体を捕食することがあります。
・身の安全には十分注意してください。なお、捕食されても市当局は一切関与いたしません。

結構人気スポットである。

参考: 『バイオーグ・トリニティ』
http://www.s-manga.net/omf/omf_978-4-08-879580-5.html
http://matome.naver.jp/odai/2139599695912445801